29日のニクの日はデパ地下では肉の特売でした。見事に赤い牛もも肉を買い、久しぶりに純正牛肉のカルパッチョを作りました。
イタリアでもカルパッチョといえば、ややご馳走の類いですが、実はリチェッタはとても簡単、超スピード料理です。和食でいえば、お刺身に近いかもしれない。手を抜く分、材料に吟味が必要なご馳走、切り方ひとつで味が左右するところも似ています。
さてこのカルパッチョ、ヴェネツィアはかのハリーズ・バーが発祥というのはご存知の通り。(しかも1950年と比較的新しい料理)世界的に知れ渡ったカルパッチョというネーミングは、これを創作した先のハリーズ・バーの初代オーナー、ジュゼッペ・チプリアーニ氏によるものだそうです。この方、この他にもベリーニ、ティツィアーノなどと画家の名を冠したカクテルも作った、なかなかのアイデアマン。けれども、由来となった画家よりも料理や飲み物の方が有名になってしまったおかげで、世の多くの人々がこれらの名前を知るのが美術館ではなくて、レストランのメニューの中と逆転することになってしまったようです。
名前の由来を補足しておくと、ヴィットーレ・カルパッチョとは15世紀に活躍した(アカデミア美術館に行けば占有の展示室があるくらいの)ヴェネツィアを代表する画家のひとり。ティツィアーノやティントレット(そういえばこの人の名前の料理がないな----いかつい画風的にあまり食欲をそそらないからか?)などに比べ巨匠という風格はないものの、主題はもとより当時のヴェネツィアの様子を細かく描きこんだ画風は装飾的で風俗画としても楽しめ、別格に親しまれている画家なのです。このカルパッチョが頻繁に使用した、いわゆるヴェネシアンレッドの赤色の連想から、この牛生肉の一皿にその名がつけられたといわれています。
上の3点はいずれもアカデミア美術館所蔵のカルパッチョの作品。一番左、聖女ウルスラ伝よりの1点が私のお気に入りです。
簡単に用意できる割に豪華で見栄えがするし、以上のような蘊蓄を傾けながら食せば、さらに印象的なおもてなし料理となりますね。カルパッチョとは本来しっかりと濃い赤身の牛肉を使うものだけど、今では様々なバリエーションが生み出され、肉魚にかかわらず、薄切りの刺身にドレッシングソースをかけて供するおしゃれなイタリアンの総称になっています。特に日本人には魚料理としての方が馴染み深いかもしれない。面白いことに客人にカルパッチョを出すと、ほぼ百発百中でその作り方を訊かれます。つまり日本人はカルパッチョが大好き、そして自分でも作ってみたくなる料理の筆頭のようです。
私の作るサルサは本家ハリーズ・バー(実際に食べたことはないけれど、1皿1万円近くするとか)のリチェッタをもとに、アレンジを加えて軽くしたもの。マヨネーズ、レモン汁、マスタード、オリーヴオイルを塩・胡椒で味を整えたら、ケッパーのみじん切りを入れるのがポイント。牛肉はできるだけ脂分の少ない赤身の濃いもも肉を選び、(イタリアではそのままですが)かたまりのまま鉄串を刺して直火で表面をさっと炙ります。薄くスライスして、さらに肉叩きで薄くのばし、お皿にぴったりと貼りつけるようにしていきます。サルサを美しくドロッピングしてデコレーションするのですが、ちょっぴり牛乳を加えてサルサをのばすと、うまくいきます。ハリーズ・バー風はきっぱりと肉だけですが、ルコラをあしらうと赤と緑が美しい。
カルパッチョの旨さは、ワインとの相性の良さでしょう。前もって用意しておくことができるので、お客の時でも慌てることなく自分もゆっくり一緒に楽しめるのもいいところ。ニンニクをこすりつけたカリカリのブルスケッタをたっぷり用意します。
ちょっと多めに買ってしまった牛肉を、翌日は和風のタタキにしてみました。カルパッチョよりまわりをしっかりめに焼きつけて、ホイルで包み寝かせます。薄切りに白髪ネギとラディッシュを添え、柚子胡椒とポン酢で。これはこれでまた美味。日本酒に合いますね。酒は岩手の廣喜。