昼も夜も芝居づけ

2008年05月
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阿佐ケ谷スパイダース(長塚圭史・作演出)『失われた時間を求めて』ベニサンピット [2008年05月25日(日)]
雑誌の取材などでも長塚さんが話していた通り、これまでの阿佐ケ谷スパイダースとは大きく違った作風のお芝居でした。
これまでは、悲惨な物語のなかに生きていくことの切なさを滲ませたドラマティックな作品が多かったのですが、今作は大きな事件は何も起らず、淡々と進んでいく会話劇。
舞台には、電灯とベンチがひとつ。
その周りには溝があり、落ち葉が敷き詰められている。
左右そして舞台奥に壁があり、木のドアがある、野外のようでもあり、室内のようでもある不思議な空間でした。

このセットを観て、エドワード・オールビーの『動物園物語』みたいだな、と思ったら、後半にこの作品について語る場面が。
『動物園物語』へのオマージュと言ってしまっていいのかわからないけれど、間違いなく創作の根っこにあったんでしょうね。
この戯曲は、オールビーのなかでも初期の作品で、いわゆる“不条理劇”と呼ばれる作品。
まあ、じゃあ不条理劇ってなんだ?ってことになるんですが、言ってしまえば、物事はすべてに因果関係がある訳ではなく、不条理な出来事もいっぱいある、というようなことをとりとめなく淡々と描いた芝居。
誤解を怖れずに言うと、物語に起承転結がなく、“クライマックス”もいわゆる“オチ”的な展開がない訳です。

これまでドラマティックな芝居を書いてきた長塚さんが、不条理劇を書くってことで、幕が開けてから賛否両論さまざま。
確かに、長塚さん的な世界観を求めて劇場に足を運んだ人は、肩透かしを喰う内容ですよね。
でも、先日『日経WOMAN』で長塚さんを取材したとき話していたのは、
「いわゆる阿佐スパ劇場みたいになってしまうのはつまらない、根ざしているものは変わらないけれど、時代は変わるし自分もかわる。変わることにビクビクせずにいたい」
というようなことでした。
観客が求めているものを作って出す、のではなく、もっともっと自身のいろんな表現方法、自身のいろんな可能性を試しているのだな、と思った次第。
それゆえに、私個人としては、この長塚さんの挑戦を頭から否定する気にはならんです。
早い段階から注目をされて、人気をともなって大きくなってしまった人だけど、じつはまだまだ年齢的にも若手、なんですもんねー。
いまから作風を自分で決め込んでしまってはつまらんですよ。
舞台では、落ち葉を集めてはぶちまける男(中山祐一朗)、オードリーという名前の猫を探す男(長塚)、その男を追いかける女(奥菜恵)、そして本を読む男(伊達暁)が入れ替わり立ち替わり登場します。
時に彼らは言葉を交わしていきますが、何について話しているのか、何のことを話しているのか、抽象的なセリフが多くなかなかつかめません。

正直、私は長塚さんがこの作品で描きたかったこと、作品のテーマというものはよくわかりませんでした。
でも、観ながら思っていたのは、自分のなかで意識しようとしまいと、顔見知りでもまったくの他人でも、人というのは少しずつ互いに関わりあっているんだな、ということ。
時間もわからない不思議な空間(時間が失われた場所、なのかな?)で、彼らはずっと同じことをし続けていたのかもしれない。

猫を探す男は、ずっとなにか失われたものを探し続けていたんじゃないだろうか。
もはや、本当に猫を見つけたいのか、それとも猫を探すこと自体が目的になってしまっているのか、わからないままに探し続けていたのかも、と。
そして後を追う女もまた、自分が何をしたいのか、何をすべきなのか見つからず、他人の探し物を自分のものにすり替えて、その空虚を埋めようとしているのかもしれない。
落ち葉を集める男は、自らの凶暴性を自覚しながらもそれを実行できずにいる。
誰しもが倦怠感と厭世観、自分への嫌悪感、イライラを抱えている。
どの登場人物も、不完全でなにかを求めようとしているけれど、その求めているものがわからずに、同じ場所をぐるぐると回り続けている。
そんな、進むべき道を見失いながらもがいている人たちの物語、なのかもしれない。
そして、彼らは出会い少しずつ変化していくことで、堂々巡りの部屋から一歩外に踏み出す時が来る。

演劇のおもしろいところは、こうやって訳わからない芝居をみながら、自分に置きかえて色々と想像を巡らすことができるところ、だと思う。
前筆の取材で「すいっと見られるものではなく、僕も演者も探っていく時間があるものにしたい。お客さんを馬鹿にせず、信じて責めていく芝居にできたらいい」というようなことを話していた長塚さん。
そうだなー。もう少しこの作品について考えを巡らせてみることにしようっと。

公演は、5月27日(火)までベニサンピットにて上演。
当日券は毎回出ているようです。あと2日ですが、長塚さんの挑戦を目撃してみてください。
阿佐ケ谷スパイダースのHP:http://asagayaspiders.net/
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望月リサ。ライター。女性誌やWebサイトでインタビューやカルチャー関連の記事を担当。締め切り間際でも観たい舞台は絶対にハズさないステージフリーク! 「ライブじゃなきゃ味わえないこと、いっぱいあります。ハマるとこんなにすばらしいものはないです。劇場にもっともっと足を運びましょっ。」
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