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あの時のわたしへ

2008-04-29 07:59:41
会議のためにアメリカに行ってきました。プレゼンを聞いている最中、急に目の前の光景が現実感を失い始めました。海外出張の度に味わうおなじみの感覚です。そして、「なんて遠いところまできてしまったんだろう」と、ぼんやり思います。日本とアメリカという距離の話ではなく、自分が、想像した未来とかけ離れた生活を送っていることに、我ながら戸惑ってしまうのです。

大学を卒業して大手企業のOLとなった私は、多くの同期と同じように社内恋愛をしました。皆がそうしたように、私もいずれその人と結婚し、社宅に入り、子育てをしながら歳をとっていくんだろうと思っていました。ところが、私とその人は結婚しませんでした。そして、別れた恋人と顔を合わせるのが辛いという、仕事とは全く関係のない理由で、その会社を辞めてしまいました。

社内結婚以外の人生を思い描いたことのなかった私は、泣きんだ後慌てて仕事を探しました。社内恋愛のために通っていたような会社ですが、配属がたまたま専門職だったことが幸いし、再就職先が見つかりました。何度か転職をしましたが、ステップアップという意識はなく、受け入れてくれるなら有り難い、という気持ちで、入社してからは置いて行かれないようにと、ただもがくだけでした。キャリアなど志向したことはなく、失恋の結果流れ着いたのが、国際会議に出るような仕事だったというわけです。

社宅に暮らし、XX株式会社の人としか関わらなかったであろう私が、アメリカ人から今後の指示を聞き、隣の台湾人に冗談まじりの不平を言い、南アフリカ人とゲームをし、ハンガリー人と夕食を食べました。誇らしく思うと同時に、足が地面を踏みしめている感覚がないような、不安な気持ちに駆られます。迷子になっているのに、楽しげな風景に浮かれていて、道を間違えたことに気付いていないのではないかと思ってしまうのです。

今まで名前も知らなかったような空港の、人気も洒落っ気もなくただ広いだけのカフェで、突然涙が止まらなくなりました。よく知っている人達に囲まれて、誰よりも分かってくれる夫に頼りながら生きていくはずだったのに、私は今ひとりぼっちです。そして、涙を流しながら私は薄く微笑みます。あの頃の私はなんてバカだったんだろうと。彼と別れたあの頃、私は死ぬほど好きだった人と同時に、結婚というたった一つの「生きて行く術」を失って絶望していました。

選択肢が多いと思われる東京に暮らしていても、私の視野は恐ろしいほど狭かったのです。いろんな生き方があるということを、知識としては知っていました。それでも私は、大勢の仲間がいて歩き易そうな道をただ歩いていました。他の道が目に映ってはいても、心に届くことはありませんでした。そして、今まで歩いていた道がちょっと行き止まりだったからといって、全ての道が閉ざされたかのように思ったのです。どんなに情報や選択肢が溢れていても、自分が拒絶してしまえば、それらがない世界に暮らしているのと同じです。平凡な私は、何かを失わなければそのことに気付けませんでした。

あの頃の泣いていた私に教えてあげたい。そんなのは単なる失恋であって、バカみたいになんでもないことなんだと。想像しなかったようなことができるようになって、あの失恋と、頑張って仕事を探してくれた10年前の私に感謝していると。今も同じように安易で、今もひとりぼっちで泣いているけれども、それはあの頃のように絶望などではなく、一本道ではない人生を楽しんでいる涙であることを。一生平凡なままの私は、また道を間違えるでしょう。それでもあの時、ある道が行き止まりでも、また別の道を探せばいいんだ、ということだけは学びました。

帰国したら仕事や厳しい現実が山積み。感傷に浸っている暇はもうありません。またてくてく歩きます。ここまで読んでくださってありがとうございました。
Posted at 07:59 | 仕事 | この記事の詳細

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