吉村峰子のアフリカに遊びにおいで!

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オバマ大統領と『花さき山』

2009年1月26日(月) 17:52
やさしいことを すれば 花がさく。
いのちを かけて すれば 山が うまれる
うそでは ない、ほんとうの ことだ……。


私がオバマ新米国大統領の就任スピーチを聞きながら思い出したのは、斎藤隆介作、滝平二郎の素晴らしい切り 絵の絵本、『花さき山』でした。


岩崎書店刊

人のことを思って辛抱すると、そのやさしさが花をさかせるという、“花さき山”。この絵本が出版されたのは1967年のことです。当時、作者の斎藤隆介氏は、「戦後自分のために生きたい命を、みんなのためにささげることこそが、自分を更に最高に生かすことだ、と信じてその道を歩きはじめた人がおおぜい出てきました」と書かれています。

これが本当にそうであったかをここでは言及しません。でも、私はこの日本の優れた絵本が訴える『花さき山』が、いま、世界が熱狂して迎える米国初の黒人大統領の就任スピーチの中に再現された、と思いました。

彼が多くの人を惹きつけてやまないのは、彼の「Empathy ー 共感する心」を大切にする姿勢がとても心強いメッセージを送ってくれるからではないでしょうか。

「共感する心」とは、人々の喜びや悲しみ、苦しみを「自分に起こったと同じように感じる心」です。

この言葉はよく「Sympathy-- 同情する心」と混同されてしまいますが、似ているようでまったく異なります。

Sympathyは、自分と同じ価値観を持っていたり、自分が同調できるからこそ生まれてくる感情ですが、Empathy とは、価値観や立場が違っても、その人の考えていることや境遇に、理解を示し共感する感情を意味します。

実は、世界の多様な文化と共生していくためには、人々の「共感する心」が不可欠です。

でも、これは、計算力とか読解力とかと同じように、想像力や許容力はとっても重要で必要だ、ということが私たちの共通の認識として社会に認められていないと、人々に「共感する心」はなかなか育ちません。この「共感する心」は、想像力を働かせて、未知の物事をいきなり否定せず、ゆっくり受け入れる、というところから生まれるからです。

さて、前政権の方針だったのでしょう。米国がこれまで見せてきた姿勢、「自分たちだけが安全だったらいい、自分たちを守るためには何でもする」は、結局米国をテロの標的とさせ、世界から孤立する“寂しい大国”となってしまいました。

つまり、「一人勝ちの幸せ」、「一国だけの繁栄」は、存在しない、という厳粛な事実です。

私が日本でも日本の外でも、子育てをしているお母さんたちにお話させていただく機会があるときに、必ず紹介する考え方があります。

「子どもは、一人では幸せではありません。“幸せな子ども”は、他の“幸せな子どもたち”に囲まれてこそ、真の“幸せな子ども”でいられるのです」

これを“国家”のレベルに引き上げれば、どうして経済的に豊かな国が経済的に貧しい国を援助しなくてはいけないか、がクリア―になるかもしれません。

“繁栄する国”、“人々の意志が尊重される国”という状態が、ある特定の国々、地域だけで実現しているとしたら、「これは何かがおかしい」と人々が疑いの目でその状況を注視することが大切です。

何故なら、これらが実現されていない国で生活する人々の中で、必ず自分たちの置かれているそういった状態への不満が高まり、社会不安を起こし、ひいてはそれが実現されている国への嫉妬や憎悪につながり、世界的な不穏を引き起こす可能性があるからです。

Cafeglobe の連載、浜矩子さんの『vol.84 弱者救済が本当に必要な理由』もご参照ください。経済学者の浜さんが、経済学の視点からこの状況を明快に説明してくださっています。

だからこそ、そういった国々、地域に住む人々に向かって、「一緒に問題を解決しよう」という新しい米国大統領の力強いメッセージが大きく人々を動かすのです。オバマ氏がこのスピーチの中で具体的にこのことを言及したのは、以下のところです。

To  the people of poor nations, we pledge to work alongside you to make your  farms flourish and let clean waters flow; to nourish starved bodies and  feed hungry minds.  And to those nations like ours that enjoy relative  plenty, we say we can no longer afford indifference to suffering outside  our borders; nor can we consume the world's resources without regard to  effect.  For the world has changed, and we must change with it.

『貧しい国の人たちへ誓います。私たちは皆さんと一緒に、農場に作物が実り、きれいな水が流れ、飢えた体に栄養を与え、乾いた心を満たすことを実現するように動きます。私たちと同じように比較的裕福な国々の人たち、国境の向こう側の苦悩にもう無関心ではない、影響を考えず世界の資源を消費することもない、と宣言しましょう。世界は変わりました。だから、私たちも世界と共に変わらなければならないのです』

オバマ氏はどうしてこういったことが必要か、という説明として、「人々の責任」について以下のように言及しています。

What is required of us now is a new era of responsibility  ‐ a recognition, on the part of every American, that we have duties to  ourselves, our nation, and the world, duties that we do not grudgingly  accept but rather seize gladly, firm in the knowledge that there is  nothing so satisfying to the spirit, so defining of our character, than  giving our all to a difficult task. This is the price and the promise of citizenship.

『私たちに求められているのは、新しい形での責任を引き受ける時代に入ることです。米国人一人ひとりが自分自身と自国、世界に義務を負うことを認識し、なおかつその義務をいやいや引き受けるのではなく、喜んでこの機会を捉えることが大切です。困難な任務に私たちのすべてをかけてあたることこそ、私たちの心を満たすことはありません。そしてこれこそが、私たちの生き方を示す、という固い信念のもとに。 これが市民としての代償であり約束なのです』

新しい時代の民主主義の社会に生きる「市民」として、米国内に収まらず、世界に向けても自分たちの責任を喜んで果たそう、という決意は、私が知る大らかで寛容の精神にあふれるかつての「米国の良心」そのものです。

そして、米国の人間が心の中でとっても大事にする大らかな「理想主義」が、力強く訴えられました。オバマ氏は、勤勉さ、正直さ、勇気、フェア―な精神、好奇心、誠実さ、そして国を大切に思う心、というこれらの“米国人が信じていたかつての古い価値観”こそが、真実であり、ここに回帰することが、これからの米国を再生には必要なのだと明言したのです。

そして、私の心に「花さき山」が浮かんできたのはここの部分です。

For as much as government can do and must do,  it is ultimately the faith and determination of the American people  upon which this nation relies.  It is the kindness to take in a stranger  when the levees break, the selflessness of workers who would rather cut  their hours than see a friend lose their job which sees us through our  darkest hours.  It is the firefighter's courage to storm a stairway  filled with smoke, but also a parent's willingness to nurture a child,  that finally decides our fate.

『政府はやれること、やらなければならないことを実行します。が、最終的に、米国が真に頼るものとは、国民の信念と決意です。それらは、堤防が決壊した時、見知らぬ人を自宅に助けいれる親切であり、厳しい時に友人が職を失うのをただ傍観するより、自らの労働時間を削りその痛みを分かち合う無私の心です。我々の運命を最終的に決めるのは、煙に覆われた階段を突進する消防士の勇気であり、子どもを育てる親の意思であるのです』

見知らぬ人を自宅に助け入れたとき、花さき山に花が咲きます。

自分の収入が減ったとしても、友人の職が失われることに抵抗するとき、花さき山に花が咲きます。

煙の中に進んで突進して行く消防士さんの一歩一歩の足取りには、その一つ一つと共に山が生まれているのです。

そして、子どもの幸せを願う多くの大人たち、親たちが、自分の眼の前の子どもたちだけでなく、世界の多くの子どもたちの幸せに思いを馳せることができ、何らかの行動ができたなら、きっと私たちはオバマ氏と一緒に、きれいな花がたくさん咲く大きな山をいくつも世の中に残すことになるでしょう。


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コメント
懐かしい本です。
確か、おばにプレゼントされた記憶があります。
でも幼かった私はこの本の真価をあまり理解できていなかったようです。
思い出させてもらってなんだか嬉しいです。


オバマ氏の演説素敵ですね、目頭が熱くなりました。
こういうすばらしい演説を何度も何度も繰り返し話すことでアメリカ市民に、そして世界の人々にも影響を及ぼしていってほしいです。
Posted by natsu  削除  at 2009/01/28(水) 06:08
こんにちは。カフェグローブ小林です。浜矩子さんの連載をご紹介いただきありがとうございます。社会を営むうえでも利他の精神が大切…という事実に、多くの人に気づいていただきたいものです。ありがとうございました。
Posted by Yuko Kobayashi  削除  at 2009/01/28(水) 11:56
峰子さん、こんにちは。政井マヤです。
『他のシアワセな子どもたちに囲まれてこそ、こどもはシアワセ』本当にそうだと思います。そして、オバマ大統領が示したempathy=共感する心、私は就任前04年の民主党大会での彼の演説『シカゴ南部の貧困地区に字の読めない子どもがいたら、自分の子でなくても私の問題なのです。薬代と家賃とどちらを払うか選ばなければ暮らせないお年寄りがいたら、自分の祖父母でなくても私の人生を貧しくするのです』というくだりを知り、感激しました。他者の幸せをひいては自分の幸せと感じられる、他者の苦しみを近いものとして感じられる…個人としても、また国としてもそうあれたなら…きれいな花が咲く世界が出来るのでしょうね。夢と理想を持ちたい、と思いました。
Posted by マサイマヤ  削除  at 2009/01/28(水) 21:42

natsu さん、

コメントありがとうございました。そうですか、natsu さんもこの本を手にとったことがあったのですね。

いまどきのお母さんたちの中には「こんな自己犠牲はナンセンス」と思う人も多いとか。でも、私は、自分がちょっと多く持っている、自分はちょっと我慢できる、というときは、それをシェアしていくことが大切だよね、と子どもに伝えていきたいです。

Posted by 吉村峰子  削除  at 2009/01/28(水) 23:54

Yuko Kobayashi様、

コメントをありがとうございました。人のことを考える余裕がない、という人が多いですよね。でも、それはちょっとさびしいなぁ、と思ったら、何か行動することで、その状況から一歩前進できますよね。そんなことを励ましていけたらいいな、と思っています。

Posted by 吉村峰子  削除  at 2009/01/28(水) 23:57

マヤさん、

コメントありがとうございました。そうです!オバマ氏のあの04年の演説で、いっぺんにこの Empathy という言葉が注目を浴びましたね。もうひとつの Change と同じくらい力強いキーワードだと思っています。

一人一人が少しずつでも自分の守備範囲、のようなものを広げていって、手を差し伸べる、声をかける、ということが自然にできるような社会を作っていきたいものですよね。マヤさんのような若いお母さんたちに、ぜひ、「花さき山」を手にとって、読んでいただきたいです。


Posted by 吉村峰子  削除  at 2009/01/29(木) 00:03
6歳と1歳の2児の母です。
吉村さんのブログは、いつも考えさせられたり力づけられたりしていますが、育児に追われなかなかチェックできませんでした。矢野さんのブログを見て、遅まきながら今日読ませていただきました。

私も子供のころ、この本を読んでいました。
当時は、あの版画の印象が強烈で、なんとなく悲しげに感じていました。
まずは母となり子供の頃とは違う私自身がどう感じるか読み返してみて、6歳の娘に読んでやりたいです。

娘を出産後、ユニセフに毎月ごく少額ですが寄付をしていてユニセフの活動便りをいただくのですが、たいへんな状況に置かれている子供たちが世界中にいて、時には読むのがはばかられるほどです。このようにまだ世界の子供たちに思いを馳せている段階ですが、何か行動をおこせないか考えなくてはと思います。

来週、娘が幼稚園を卒園します。卒園式で「世界中のこどもたちが」という歌をうたいます。『世界中の子供たちが一度に笑ったら空も笑うだろう 海も笑うだろう』と、歌います。

吉村さんのブログ、今後も期待しています。






Posted by skansen  削除  at 2009/03/12(木) 23:47
skansenさま、

ご丁寧なコメントありがとうございました。

私が敬愛してやまないネルソン・マンデラ氏が、こう言っています。「平和の最大の敵とは、“無関心”なんだ」

つらくても、世界で起きていることはやはり大人の責任として、しっかり見ていってやろう、という気持ちを多くの人が持つことが大切だと思っています。

「世界中の子どもたちが一度に笑ったら〜」いい歌ですよね、私も自分の子どもが日本の保育園でお世話になっていたときに知りました。その歌詞を読み、涙が止まらなかった記憶があります。

よい卒園式をお迎えください。

Posted by 吉村峰子  削除  at 2009/03/14(土) 23:49
吉村峰子さま

私のブログに、吉村さんのこの記事を引用させていただきました。事後承諾になってしまいましたが、お知らせいたします。私のブログは今のところ誰にも言わずに地味に書いていますので、ご迷惑のかかることは無いと思うのですが、何か問題があればお知らせください。

吉村さんの「この人が素晴らしい」というカテゴリー、素敵ですよね。読むと私も励まされます。どうぞお元気で良いお仕事を!
Posted by auspicious_day  削除  at 2009/03/15(日) 19:03
auspicious_day さま、

コメントをありがとうございました。ブログも拝見させていただきました。とっても嬉しかったです。

私は自分の周りにある人のこと、事件のことをひとつひとつ丁寧に関わっていきたいと思っています。でも、ものすごく大雑把な性格もしているので、ぼろぼろと落していることもたくさんあります。

でも、あきらめない、めげない、投げ出さない、を心に銘じてこれからも前進したいと思っています。

こういったご支援くらい嬉しいことはありません。どうぞ、南アへも遊びにきてくださいね。美味しいワインと新鮮な野菜、魚で歓迎します!

Posted by 吉村峰子  削除  at 2009/03/16(月) 15:00
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プロフィール
Profile
吉村峰子
(日本語/英語教師・ライター・通訳)
東京都生まれ。1980年頃より日本語・英語教育に関わる。教えた国は、日本、米国、デンマーク、ドイツ、リべりア、エチオピア、マラウィ、南アフリカなど。1986年頃より、アフリカと日本を交互に生活した後、2003年、南アフリカ・ダーバンに家族とともに移住。現在はダーバンで日本語・英語教育、執筆業、通訳業で大忙しの毎日を送る。

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