南アフリカ人に日本語を教える 3 [2007年10月02日(火)]
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私が“カウンセリング・ラーニング”という外国語の教え方に出会ったのは、1980年頃の米国だ。私は外国語の教え方を学んでいた。
カウンセリング・ラーニングとは、精神分析医であり、カソリック系キリスト教の神父であり、言語学者であったチャールズ・カーラン博士が1970年代に、彼のこの三つの専門領域を網羅して編み出した画期的な外国語学習方法だ。 この学習方法で講師は、学習者が抱く、「恥をかかないだろうか」、「失敗したら嫌だなぁ」、といった不安や心配を、極力少なくすることを肝に銘じなくてはならない。なぜなら、学習者がびくびくしながらではその学習の成果はたいしたものが残らない、という極めて現実的な考え方が底辺にある。精神分析医のカーラン博士は、人の心のありようが、その人の学習効果にどんな影響を及ぼすか、ということを熟知していたのだ。 逆説的に、そうでない具体的な例を英語学習であげてみよう。巷で広く信じられている英語学習法の効果的なものひとつに、「英語を学ばせたいなら英語で教えろ」といものがある。これは、多くの人が「そのとおり!」と思ってしまうのが残念だ。その理由に、外国で暮らすことになった子どもたちが自然のうちにその土地の言葉を身につけていく、という誤った認識がある。だから、最初は分からなくても存分に“英語のシャワー”を浴びればいい、という考え方。 でも、考えて見てほしい。ネイティブの話す英語をそのまま聞いて、何をどういわれているか、すんなりそのまま理解するのはものすごく大変なことなのだ。言語を理解するのは、とっても複雑な脳の活動が不可欠だし、文法だって、語彙だって、相当知識を増やさなければいけない。ネイティブの話していることを聞いただけで理解できるようになるには、最低でも2000時間ほどの時間が必要、とも言われることがある。 「でも、子どもは違うのでは?」ということをよく言う人がいる。 確かに、文字学習前の子どもたちがその外国の言語の発音を大人より正確に学ぶケースもあるかもしれない。が、子どもたちだって、自分が慣れ親しんだ言語からいきなり異言語環境に放り込まれたストレスはものすごく大きいのだ。また見過ごしてならないのが、子どもたちの言語で表現したい世界、というものが大人のそれと比べて、非常に限られているという現実がある。 だから、多くても週2〜3時間の外国語学習で、コトバをシャワーのように浴び続けても、なかなか英語を話せるようにはならない。 カウンセリング・ラーニングは、大人が外国語を学ぶ際、リラックスした学習環境というものを重要視する。それは具体的には、講師に自分の分かる言語で、「何を言いたいか」ということを伝える、ということに代表される。 また、私は文法項目などは、その人がもっとも理解できる言語で説明している。つまり、日本人が英語を学んでいる場合は、その説明を日本語で行い、南ア人が日本語を学んでいる場合はその説明を英語で行う、ということだ。 カウンセリング・ラーニングには教科書がない。学習者が学びたいことをその場で講師がその言語に訳し、発音から文法から、字の学習まで、その出てきた内容に沿って、従来の教科書に書かれている文法の順序とは関係なしに学んでいくのだ。 つまり、学習者の表現したいことが過去のことであったら、文法もそれに沿って、過去形の動詞などを学んでいく。過去形を学ぶためには現在形を先に学ばなくてはいけない、という考え方は当てはまらないのだ。 カウンセリング・ラーニングの具体的なレッスン風景を簡単に説明すると以下のような手順となる。 @生徒たちが自由に自分の母語で、自分の言いたいことを講師に順番に伝える A講師が同時通訳の手法を使って、瞬時にその学んでいる言語でその言いたいこと生徒に伝える。 B生徒は講師の発音に近くなるように何回も練習して、その自分の“音”が講師のそれと同じか、近くなった段階で、その“音”を録音する。 Cその一連の作業を4〜6名の生徒が繰り返して、意味のある、生徒たちがもっとも興味のある内容でその言語を学んでいく。 D一回、2分以内の会話を録音し、次のレッスンまでに自分のパートは暗誦できるようにしてくる。 E会話文の書き写し。各々が自分のパートを担当して黒板に自分のパートを書いていく。そのつど、文法説明が入る。 私はカウンセリング・ラーニングでこれまで英語と日本語を教えてきた。特に、切羽詰った、必要性に迫られた人たちに抜群の成果を発揮してきた。参考のため、ある日のレッスンで録音した会話のさわりを紹介しよう。 A: ゴールデンウィークにディズニーランドに行きたいんですが。 B: はい、何名さまですか。 C: 大人8人と子ども4人です。 B: お客様、パッケージ旅行がありますよ。新幹線とホテルとパスポートがついています。 A: パスポートって、何ですか? こういった会話文の自分のパートを、口頭できちんと言えるよう練習し、また、ひらがな、カタカナ、漢字を駆使して黒板に書き進める。そして、書きながらそのつど文法の説明を受けていく。 すべてが彼らの興味に沿ったものであり、必要とされているものだから、その集中度が非常に高い。 英語をいろいろな形で学んだことがある人は、これが、いかに、能率のよい学習方法であることが理解できるはずだ。ただ、この学習方法の欠点は、ずばり、この手法を使えるだけの言語力を持つ講師の確保が難しいこと。 また、この手法が米国で爆発的に支持されなかった理由は簡単だ。米国などでは、学習者の出身言語が多岐に渡る。つまり、6人の生徒が6つの言語を必要としたら、そこには6つの言語が理解できる講師、あるいは、6人!の講師がいなくてはいけない。となると、経済的にこれは成り立たないのだ。 ところが、日本で英語を学ぶ場合や、南アで南ア人が日本語を学ぶ場合は、全員の理解できる母語が共通の場合が多い。私は、ここ南アフリカで、私がカウンセリング・ラーニングを使って日本語を教える、という偶然のような、いや、運命のような現実がとっても嬉しい。 ![]() 会話の録音に使うデジタルレコーダー。昔はカセットテープを使っていたが、 今はこんなに便利なものがある。音質もきれいで使いかっても抜群。 |




