吉村峰子のアフリカに遊びにおいで!

2007年11月
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アフリカからの手紙 [2007年11月12日(月)]
 


これは、もうすぐ大学受験を迎える、
私の元教え子の一人への手紙です。

☆☆☆☆☆☆☆

私は、君のあの大きな瞳から、ぼろん、と音を立てて流れた涙を絶対に忘れない。

月日が経ち、場所が移り、君がどんなに大きくなっても、私はあのときの君の悔しさを一生忘れない。

君が、あの時、直面していたのは、世の中の理不尽さそのものだった。しかも、身勝手な大人の行動で子どもが犠牲になる、という構図そのものの。

そうだ、世の中には、どれだけの多くの子どもが、どれだけの多くの身勝手な大人の犠牲になっていることか。

実の親に食べ物を与えられない子もいる。
実の親にレイプされる子もいる。
実の親に殺される子もいる。

アフリカでも日本でも、私は具体的にこんなことを見聞きしている大人の一人だ。

だから、君の体験した“理不尽”はそんなにひどくはないんだ、と私が思ったと思うかい。そんなことはないんだよ。

私は“不運”とか、“理不尽さ”というものは、比べる必要がないことだと思っている。

逆説的に、あえて、アフリカと日本を比べれば、アフリカは人の命の値段がどう考えても安い。“下痢”で子どもが死ぬんだよ。アフリカの多くの地域では、いまだに、日本では死ぬ必要のない病気で人が死んでいく。

エイズを発症している男が、処女と性交をすれば自分のエイズが治る、という迷信を信じて、自分の幼い子どもをレイプし、エイズを感染させていることだってある。そして抵抗力の弱い子どもはエイズを発症して、ばたばたと死んでいく。

「命の値段」とは、“言葉”としてとっても重い。軽々しく使える言葉ではないね。でも、私は、自分の腕の中で、生後たった14日の赤ちゃんの命が消えていく、そんな経験をいくつかしてきた。医療関係者ではない私にとって、それがどれだけのことだったかを、君は想像できると思う。

でもね、繰り返して言おう。それでも、ひとつひとつの残念な出来事を比べる必要はないんだ。

だって、君の人生、君の境遇は、君しか実体験できないことだから。そして、それをどう自分の中で昇華させるか、というのも個人の裁量に関係することだから。

私は、あのときの君の涙を忘れない。

私は、君と君のお母さんと、君よりももっと小さかった君の妹に、幾晩かの宿と心づくしのご飯を用意することしかできなかった。どうしようもない現実、というやつだ。自分の無力さを感じることは毎日だが、あの時、自分の目の前にいる君の悔しさをどうもしてやれない自分の非力さと無念さを、私は今でも痛みとともに思い出す。

でも、それ以降の君の人生の見事さはどうだろう。確かに、学校に行けなくなった時期もあったね。でもね、あれは、賢い君が自分の心と身体にしんと耳を済ませた末の賢い選択だった。

そのおかげで、君は北の大地の生徒たちの心を大切にする学校で、こんなに君の可能性が広げることができたんだ。学校に行かないあの時期がなかったら、この展開はなかったよね。

自分のことで精一杯のはずなのに、いろいろ他の人の世話まで引き受けてきてしまう君のお母さんの奮闘ぶりも私にはまぶしい。遠く離れているからね、なかなか肩を抱いて褒めてあげることができない。でも、何かあればいつでもどこからでも、参上する用意はあるんだよ。

そして、いま、大切な受験を控えた君にアフリカの空いっぱいのエールを送りたい。

君の受験しようとしている大学は、日本のトップクラスだ。中学での不登校を乗り越えて、そこに果敢に挑戦しようとしている君を誇りに思う。その大学で学ぶ学生の満足度は、日本一、とも言われているそうだよ。きっと、入学してからの勉強のしんどさは、きっと君の今の想像を軽く超えると思う。

私は君のそこでの奮闘ぶりを期待している。

君に、「英語を話す、ということは何を大切にするべきなのか」、ということを教えた最初の教師として、この大学が、どう君の英語力を伸ばしてくれるか、ということもじっくり見ていきたいと思う。

君はあの時の悔しさを、もうきっぱりと消化しているのかもしれない。君はそういう力を持つ人だから。

でも、あの時の経験が、まだ、ほんの少しでも君の心を暗くすることがあるのなら、それは大人の私が引き受けようと思う。アフリカの大きな空の下で、キリンやゾウたちと一緒に君の悔しさをパクパクと食べてしまおうと思っている。

君を幼いころから知る大人の一人として、君の成長をどれだけ喜んでいるか知って欲しい。

そして、これから先、独り立ちしていく君の人生にはいろいろなことが待ち受けている。世の中は一人になって初めて分かる大変なこともたくさんある。

覚えておいて欲しい。君には回りに君のことを心から考えている人間がいる、ということも。何があっても君のことを信じているよ。そして、大人になった君が、自分以外の人のために、何か行動できるようになる日が来るのを心待ちにしている。君はそれができる人だから。

心を落ち着かせて、君のありったけの思いを受験用紙にぶつけておいで。



この記事のURL

http://www.cafeblo.com/safrica/archive/24
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コメント


メールありがとうございました。

すぐに覗いてみたかったのですが、バタバタしていて、やっとアクセスしたところです。

峰子さんのブログを読んでいると、忙しいを言い訳にするな!もっとしっかりしろ!!という気になりました。

世界を地に足をつけて頑張っている皆さんたちに負けないように、私なりに”自分以外の人のために、何か行動でき”るように踏ん張っていきますね。
Posted by:Keiko  at 2007年11月15日(木) 14:48
プロフィール
Profile
吉村峰子
(日本語/英語教師・ライター・通訳)
東京都生まれ。1980年頃より日本語・英語教育に関わる。教えた国は、日本、米国、デンマーク、ドイツ、リべりア、エチオピア、マラウィ、南アフリカなど。1986年頃より、アフリカと日本を交互に生活した後、2003年、南アフリカ・ダーバンに家族とともに移住。現在はダーバンで日本語・英語教育、執筆業、通訳業で大忙しの毎日を送る。