「自分は自分の好きなことしかしてきていないんです」
とは、南ア初の日本人プロサッカー選手、村上村上範和(むらかみのりかず)さん。
今回のワールドカップは、前々回の原稿でも触れたとおり、私にたくさんの出会いをもたらしてくれました。
その一人が、この村上さん、南ア人は敬愛を込めて、“NORI”と彼を呼びます。
人より優れた身体能力とは、それを極めることで、生活の糧にでも、その人の人生をかけた仕事にも発展する、ということをプロのスポーツ選手は私たちに見せてくれました。
ところが、メディアを通して知る、サッカーや野球などの選手たちは、私にとって別世界の人たちでした。
これまでは、彼らの人生が書かれているインタビュー記事を読んでも、「へえ〜、すごいね」どまりだったのです。
つまり、彼らが生身の人間として、私の隣でおしゃべりしたり、食事を食べたり、または問題に直面して悩んだり、といった面を実際に知ることはいままでなかったからでしょうか、メディアの記事は私の心には深く届かなかったのです。
これは、私の受け取り方にも問題がありそうですが、とにかく、彼らは今までの私の人生にはあまり関わりのないグループの人たちだったのです。
ところが、今回、村上さんの南アのエージェントを通して、彼とも親しくなる機会ができ、ダーバンに村上さん家族がお見えになるときは、我が家に泊まっていただくくらい親しくさせていただくことになったのです。
日常生活を通して知る、プロのサッカー選手。私としては、いつもながらの好奇心と、彼の爽やかな人柄に接して、とても楽しい時間を過ごさせてもらいました。
冒頭の発言は、私が彼に聞いた質問の答えです。
「プロのサッカー選手になるってどういうことなのかしら」
彼は、サッカーが好きで、ボールを蹴ることが好きで、サッカーをすることで、世界の人と共有する時間ができること、自分だけではとうてい達成できないようなことも、他の選手、関わりのある人と同じ目標に向かって努力して夢を実現する楽しさを語ってくれました。
またサッカーの持つ「ゴール」の意味にも、私は感銘しました。
サッカーの究極の目的とは、「ボールをゴールすること」。
それが積み重なって行って、ゲームに勝ち、トーナメントに勝ち、最終的には4年に一回の世界のひのき舞台、ワールドカップにつながるのです。
なんて明快で、単純で、誰にでも、どんな人にも分かりやすい達成目標なんでしょう。
そして、そんな素晴らしいことを、たんたんと語るノリさんの人柄にも私は心の底から感嘆しているのです。
ノリさんのことはこれからも折を見てお話ししていきたいと思いますが、今回は、彼がどのようにして南アのプレミアム・リーグ、“プラチナム・スタース”に入団したか、という顛末を少々。
ノリさんは、学生時代からサッカーではプロの道を目指し、大学卒業前から、シンガポールのクラブにスカウトされ、シンガポールには合計5年間滞在しました。その前には、ブラジルにも、イタリアにもサッカー修行に出ていていた時期もあります。
プロのサッカー選手たちは、自分たちの人脈などをフルに活用して、世界中のサッカークラブが、自分たちのチームにどんな選手が必要とされているかを探ります。もちろん、Agentと呼ばれる代理人が、彼やの行き先を探す場合もあります。
ノリさんの場合は、現在の南アの代理人を彼の友人の一人が知っていて、その関係で、南アのプレミアム・リーグ、“プラチナム・スタース”に入団したのです。
驚いたのは、こういった話はどのくらい時間をかけて、進めるのか、という質問に、彼がいとも簡単に、
「ああ、今回、南アに来た時は、決めてから南アへの出国までに、2,3日しかありませんでした」
と軽々と答えたことでした。
ノリさんには、奥さんも昨年南アで生まれた可愛いメイちゃんもいるのです!そう簡単な引っ越しではないと思うのですが、彼はなんでもないような雰囲気で、シンガポールから南アへの移動を語ってくれました。
つまり、南アに来る前から、彼にとって世界そのものが、彼のサッカー選手としての活躍の場だったのです。だから、まるで国内移動のようにたんたんと動けるのでしょう。
彼が次々と越える国境、それはどんな意味をしているのでしょう。
誘われる声があれば、それが南米であろうが、アジアであろうが、またはアフリカであろうが、軽々とその国境を、人種を超えて、出向きます。
「僕はサッカーが好きなんです。サッカーができれば、どんなところにも行きます」
という彼は、実は、子どものころ、中国に住んだことがあるのです。これは、彼のお父様が日本の商社勤務で、中国に駐在していたことからの理由でした。実は、ノリさんは、この中国語も、ブラジルの言葉であるポルトガル語も、そして南アの公用語のひとつ、英語も話すことができるのです。
「そんなに器用な人間ではなし、言葉が足りないことも多いし、面倒くさいことは嫌いだし……」
とは発言するものの、彼の生活や人との交わり方、私やショウコ、カンジたちとの付き合いかたを見ていると、彼がいかに他の人の仕草や発言にきちんと注意を払っているのがよく理解できます。
我が家の二人ともすっかり仲良しに
英語で言うところの、“Attentive”という単語がぴったりくる青年なのです。
“サッカー”というスポーツに秀でた、日本の青年が世界を転々としながら、丁寧に、現地の人、または同じ境遇の様々な地域出身のチームメイトと共に、練習し、試合をし、そして、「ボールをゴールする」という、サッカーをただひたすら体現している爽やかさがあります。
スポーツの凄さ、それに関わる人たちのさわやかにやっと開眼した私にとって、ノリさんの今後から目が離せません。