香時間 [2008年03月13日(木)]
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雨の季節が通り過ぎたことを知らせてくれる匂いが、朝夕に漂いはじめました。
我が家の庭に咲くピーカケです。白く小さな花で、別名はアラビアンジャスミンとか。私は大好きなこの花を前にすると、鼻の穴に花を詰めておきたいという衝動にかられるのを、抑えなくてはいけません。 ![]() 娘が一度、私が眠っているときに本当に、鼻に花を詰めたことがあったのですが、どんなによい香りでも、鼻につめると匂いは味わえません。ということで、いまは、体全体を鼻にして香りを吸い込むことにしています。 このピーカケ、ハワイでは、プリンセス・カイウラニの花として愛されています。プリンセス・カイウラニの名前は、ヴィクトリア・カラニヌイアヒラパラパ・カヴェーキウ・イ・ルナリロ・カイウラニ。スコットランド人のお父様と、ハワイ王国第七代目の王様カラカウア王の妹、リケリケ妃をお母様とし、カラカウア王の養女として育ったプリンセスです。 当時のワイキキには、たくさんの王族の人々が暮らし、プリンセス・カイウラニは、アーイナ・ハウと名づけられた場所に館をもち、お父様が世界中から取り寄せた珍しい植物が植えられた美しい庭に囲まれていたそうです。 その庭には、お母様のリケリケ妃がプレゼントした白い孔雀が数匹、プリンセス・カイウラニの愛する白い孔雀(ハワイ語でピーカケ)にちなみ、彼女の好んだアラビアンジャスミンは、ピーカケと呼ばれるようになりました。 ![]() プリンセス・カイウラニの肖像画とピーカケ 余談ですが、日本の明治時代に、日本を正式訪問したカラカウア王が、明治天皇に養女であるプリンセス・カイウラニを日本の皇族の山階宮定麿王の配偶者にしていただければと、申し出たという逸話もあります。 ハワイ王朝は、プリンセス・カイウラニの伯母であるリリウオカラニ女王を最後に王朝を閉じたため、カイウラニは最後のプリンセスとなりました。イギリスへ留学し、流暢なイギリス英語と王女としてふさわしい行儀作法を身につけた彼女は、ギターやウクレレを弾きこなし、乗馬やサーフィン、文学を愛する才能豊かな美しい女性。ハワイ王朝が米国に統合されるという歴史的な出来事の際も、ハワイの人々のために心を砕いた人物として、今もハワイの人々に愛されています。 彼女のために歌われた歌は数多く、私たちが彼女の曲でフラを踊るときは、ピーカケの花のレイを纏います。レイはこの小さな花をつむいだものを長く垂らすこともあれば、短めのものをいくつか重ねて使うこともあります。私が一度、そのあまりの美しさに驚いたのは、ピーカケのつぼみで作った長いレイを幾重にもしたもの。まるで真珠の首飾りのように輝いていて、その香りといったら、つぼみがどれだけの香りを封じ込めているのかを知る思いでした。 我が家では、このピーカケは、娘がレイを作って遊ぶほか、お風呂にいれたり、部屋に置いたりして香りを楽しんでいます。香りとともに、プリンセス・カイウラニの物語や歌を思い出したり、この香りが好きだという家族や友人のことを考えてみたりと、香りが私に贈ってくれる時間は、私一人が過ごす時間とは比べ物にならないほど豊かです。 ![]() 花の匂いに限らず、匂いは目に見えないにも関わらず、想いをいざなう名手でしょう。 私は、娘が小さいころ、娘の匂いが大好きでした。よく、匂いをかいで、笑われたりしたのですが、彼女の匂いは本当にいつも私をほっとさせてくれる匂いです。「あぁ、お母さんになってよかった」と思わせてくれる匂い。 いまは娘がもう六歳なので、匂いといえば、学校で食べたパンケーキのシロップを髪の毛につけてきたり、埃臭いような真っ黒な手足に、「早く洗いなさい、お風呂に入りなさい」と口うるさくなってしまうのですが。それでも、不思議なことにいまも、私がすぅーっと抱き寄せたくなるとき、彼女からは私の大好きな匂いが少しします。 ハワイでは、亡くなった人に想いを馳せたり、亡くなった人が何かを伝えようとするときに、その人が好きだった花の香りが、花がないにも関わらず、強く香ると言われています。人を花に例えることの多いハワイならではですね。 私は、香水などをつけるのが好きではないので、基本的には無臭、私から香るとしたら体臭か、シャンプーなどのちょっとした香りです。でも、ピーカケの香りだったら、いつもそばに置きたいと思った私は、アロマオイルや、香水などでピーカケのものを買ったこともありました。 確かにかなり近く、よい香りのものがあるのですが、私はやっぱり時期を待つことにしました。なぜか、どんなによい香りの香水も、花が咲くのを待って、香りを楽しむほうがよいでしょう、と私に訴えかけてくるのです。 ![]() 香りを待つこと。 これは三十歳の半ばになってから、いくらかできるようになった「待つこと」のひとつ。 今日は、咲きそろいはじめたピーカケを娘の部屋へ。 小さな鼻の穴が心地よさそうに広がるの考えただけで、笑いがこみ上げます。きっとこんな時間が、我が家の香りの思い出をつむいでくれるのでしょう。 |







