おへそに手をあてて……

2007年12月
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愛することは、知ることから [2007年12月03日(月)]
「愛ちゃんの家、随分おおらかな性教育ね、それ、とってもいい!」

と言ったのは、南アフリカに住む私の年上の親友、吉村峰子さん。

長年にわたって、「先生」という仕事に携わり、またHIV/エイズの患者さんたちとともに歩む暮らしのなかにいる彼女。いつもHIV/エイズに関する知識を少しでもいろんな人に知ってもらおうと、汗をかき、声をからし、歩きまわり、ときに頭をひねり、そして、くしゃくしゃの笑顔を見せたかと思えば、ゴウゴウと泣きじゃくる、一生懸命に日々、HIV/エイズと歩む人です。

私が、娘が今よりもっと小さかったころの話を峰子さんに話した途端、「それは性教育よ」と言われてびっくり。性教育といえば、中学校の保険体育の授業の思い出をひっぱりだしてこないといけないほど、私には縁のない言葉だったからです。

「ママ、ママのお腹のなかは赤いのよ。そして遠くが明るいの。きれいなところでね、そこから、う〜んって、でてきたけど、でてきたところはどこ?」

お風呂に入ると、思いだしたかのようにその話をする娘に、私はそのたびに、「そうよ。でてくるところはここ、とっても大事なところよ」と答えていました。

当時、私の行くところはどこにでもついてきていた娘、トイレについてきたものの、急に心配顔になり、半分泣きそうになりながら、ある日そう叫んだことがありました。

「ママ! どうしたの? 怪我をしたの?」

私は慌てて、「違う、違う。ママね、生理なの」と答えました。そして、生理の意味を説明すると、娘なりに納得したようでした。以来、生理、結婚、出産、赤ちゃんなどのキーワードは、彼女のなかで繋がりをもっているようです。

ママの体のどこから出てきたか、どうしてママから血がでているのか、それは私にとって、娘に隠すことではありません。娘の年齢からいって、わざわざ話すことではないのですが、聞かれればもちろん答えます。



この話を峰子さんに話すと、教育関係の仕事に従事して経験の長い彼女は、それを性教育だというので、私は今更ながらに驚いてしまいました。というのも、性教育云々とは学校の授業や地域社会で話題にのぼるものと思いこんでいた私には、家庭でする生理や出産の話とそれが、同じことには思えなかったからです。

いまでも、娘は、お父さんやお姉ちゃんとお風呂に入って感じた体の違いを私に話したり、いつ生理がくるのか、いつおっぱいが大きくなったり、脇や大切なところに毛がはえるのかなど、私に質問します。まるで、今日のご飯はなぁに、と聞くように。

聞かれたことに答えるのは親の務めと思っている私は、いかにわかりやすく説明するかに四苦八苦。しかし、娘は、ヤギの出産をみて、「生理の穴から赤ちゃんがうまれたよ! ママの穴から赤ちゃんの栄養(胎盤)がでてる」と言っていましたし、学校で着替えるときに、裸の娘をからかった友だちに、「笑わないで! ここは笑うとこじゃないの、大事なとこなのよ!」と大声でやり返したとのことです。

きっと、六歳なら六歳なりに、理解をしているのでしょう。娘がよく眺めている写真集、『A Child Is Born(子どもが生まれる)』も、彼女の理解をだいぶ手助けしてくれたようです。

「性教育は大事、HIV/エイズにだって知識さえあれば絶対かからない」とは、峰子さんの口癖。親になってまだ数年の私ですが、大事なことをできていると言われて、一安心でした。

私自身、親としてなすべきことはしようという覚悟はありますが、峰子さんから毎日にようにHIV/エイズのことを聞いても、「性教育は大切なことです。ひとりでもHIV/エイズの患者さんが増えることを防ぎましょう」と、私が言うということに、はじめは少し気おくれがしました。「あなたの知っているHIV/エイズの患者さんの名前をあげてください」と聞かれて、「本やテレビで知った川田龍平さん」と答える私と、いつもHIV/エイズの患者さんと一緒にいる峰子さんとは経験に差がありすぎ、私が峰子さんの口癖をまねても、それこそ、言うが易し、です。

しかし、私には峰子さんの言葉が、彼女の悔しさ、悲しさからくる激しい叫びに聞こえました。彼女が普通の口調で話しているときさえも。私は、峰子さんを通じて彼女が大好きなアフリカの素晴らしさと、彼女自身が体験しているHIV/エイズの問題を知ったのです。知ったならば、知らないふりはできません。

私一人の声が、二人の娘に届くなら、もう十人ほどの人にも届くかもしれない。

もう、黙っているわけにはいきませんでした。以来、私はできる限り、峰子さんの活動をサポートしてきました。峰子さんがHIV/エイズの患者さんと関わり、HIV/エイズの知識普及活動をはじめたきっかけも、二人のお子さんのためだったことも、私が今、お腹の底から納得して、発言し、書くことができる理由のひとつです。

六歳の娘にわかるように、十五歳の娘と同じ目線で、彼女たちの疑問に答えることが性教育なのであれば、私は喜んでします。性をもって生んだ性を、育みたいからです。娘たちが成長し、社会のなかで様々な人間関係を作っていくなかで、性教育の内容は、HIV/エイズ、避妊、性感染症などのことにも広がるでしょう。まずは私が知る努力も必要に違いありません。

子どもたちにしっかりとした知識を与え、自らの命を大切にするように教えることは、私が子どもを愛しているっていうこと。



どうか、HIV/エイズについて、知ってください。

まずは知ることです。みなさんが、自分で自分自身を愛するために。そして、みなさんが愛している家族や恋人、友人のみなさんに伝えてください。

すでにお子さんのいらっしゃるみなさんは、きっと無条件でお子さんのために動いてくださることを信じています。

そして、お子さんのいらっしゃらないみなさんは、あなたの愛する人と抱き合うまえに、自分自身の両手で、あなたの体を抱きしめてみてください。自分の体を大切にすることは、愛する人を大切にすること、私はそう思っています。

私はこのエッセイを、十二月十五日にシンポジウムに参加する吉村峰子さんを応援するために書きました。読んでくださったみなさま、興味を持ってくださったみなさま、是非、シンポジウムにいらしてください。また。カフェグローブ編集部にて、なんと川田龍平さんのインタビュー記事を掲載中です。こちらもあわせてご覧くださいませ。

◎詳しいシンポジウムのお知らせや吉村峰子さんのエッセイはこちらから! 

プロフィール
神宮寺愛
エッセイスト×フラダンサー
東京での出版社勤務を経て、現在はエッセイストとして活動。マウイ島ワイルク在住。著書『心と体がピュアになるハワイアンな暮らし』(青春出版社・刊)他。フラやハワイ語等を学ぶダンサーでもあり、カノエアウダンスアカデミー所属。現在カアナパリビーチホテルのディナーショーにレギュラー出演中。