おへそに手をあてて……

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地元産購買運動のすすめ [2007年12月19日(水)]
バナナが甘くない。

先日、シアトルに行ったことを書かせていただきましたけれど、実は私、シアトルで何気なく、バナナを買って食べたのです。ところが、そのバナナときたら、味がない……。

朝に食べた食べ物が美味しかっただけで、一日元気でいられる私は、味なしバナナを食べた途端、しょんぼり。そして、「ちぇ〜っ、甘くないや」と口を尖らせながら、ちょっと思い出したことがあったのです。



私がマウイ島で暮らし始めて二年目のころ、地元産購買運動をはじめたことがありました。いまは地元産のものを上手に買う知識も増え、あまり意識をせずとも、地元のものを買っているのですが、当時は買い物に行くたびに、「君はどこから来たのかね?」と尋ね歩いていました。

運動をはじめたきっかけは、バナナ。

日本からマウイ島に引っ越して一年ほどしたあと、しばらく日本に滞在する機会があったときのことです。

バナナは日本でも一年中買うことができるトロピカルフルーツ。もともとバナナは好きですし、美味しいバナナが食べたいな、と手を伸ばしたところ、バナナってこんな味だったかしら、と考え込んでしまいました。もしかしたら、種類が違うのかな、食べるタイミングがいけないのかな、といろいろ試したのですが、食べたかったバナナの味にたどりついたのはマウイに戻ってからでした。

私にとって、バナナは日本でもマウイでも、そして、いつでも買えるお手頃な果物でした。旬のあるほかの果物に比べると、明らかにバナナへの感謝が足りなかったのです。

ところが、マウイで一年ほど食べなれたバナナの味と、日本に戻ってから食べたバナナの味の違いを、私の味覚はするどく察知。採れたてのバナナ、しっかり熟れてから収穫したバナナは美味しいのだということを、まざまざと学んだのです。

それからというもの、私は、マウイ島で地元産購買運動をはじめました。

マウイは高原地帯があり、キャベツや白菜などの野菜が豊富に採れるため、地元でまかなわれている野菜はたくさんあります。また、バナナやパパイヤなどの果物は比較的どの島でも生産されていますから、ファーマーズマーケットなどで購入すればよいだけでした。



野菜や果物だけではなく、お肉、お魚、牛乳、卵なども、マウイ産を探すことは難しいことではありません。お肉は地元のものか、米国本土からのものかが必ず書いてありますし、お魚などはどこで獲れたのか、養殖なのかどうか、を確認することが可能です。牛乳や卵はマウイ島の乳製品メーカー、ハレアカラ・デイリーがあります。卵は農家から生みたてを買うことも。

そして、買い物をする時間がなく、マウイ産を探せないときは、範囲をまずはハワイ州に広げてみます。米国本土やそれ以外の国からの生鮮食品を買うのは最終手段というわけです。

マウイ島では、マウイ郡政府が『BUY MAUI FIRST(マウイ産のものをはじめに買おう!)』という運動をしているため、生鮮食品と違って、どこが産地なのかがわかりくい加工食品には、店頭で『BUY MAUI FIRST』という目印を出しています。

たとえば、お肉はお肉が包まれている入れ物の表面に、ローカル・ポーク(地元の豚肉)か、メインランド・ポーク(米国本土の豚肉)か、わかりやすく書いてありますが、ソーセージやベーコンを買おうと思ったら、商品の裏側をひっくり返して、細かい文字を確認する必要があるところを、店頭の目印が教えてくれるというわけです。

私がどこの産地なのかを確認して買うことに気をつけているのは、単に、美味しいものが食べたいというだけなのですが、『BUY MAUI FIRST』という運動は、マウイの農家や牧場、その他メーカーに利益をもたらして、マウイ島の経済を潤わせようというものです。

確かに、五ドルのハレアカラ・デイリーの牛乳と、三ドルの米国本土からの牛乳を比べると、三ドルに手が伸びがちです。でも、二ドルの差をどこかで遣り繰りすることで地元産を買う努力は、できない努力ではないと思うのです。

遣り繰りばかりしていると、ちょっと疲れてしまいそうですが、野菜や果物などは、地元産が美味しくて安いことは言うまでもありません。この買い物の目線に慣れてしまえば、地元産購買運動などという堅苦しい言葉もいらないのです。私にとっては、シアトルのバナナに気がつかされるほどの、当たり前の日常になってしまっていたくらいですから。

地元産購買運動を忘れていた私が最近夢中なのは、もっと気長なプロジェクトなのです。名付けて、『次世代引継運動』。美味しいものを、次の世代にも引き継いでいこうという運動です。

まず、美味しいと思った果物や野菜の種を取っておき、植える、という単純な運動。我が家では、隣のハナコおばあちゃんのヘイデン・マンゴー、甘くてまろやかだったソロ・パパイア、アルおじさんのくれたアボガド、無料で配っていたレタスの種、などが次々と植えられ、無事に育っています。



美味しいものが増えると思うだけで幸せ。

みなさんも、始めてみてくださいね。食べ物と仲良くなると楽しいですよ。お買いものにいって、まずは地元産、ちょっと郊外までは範囲を広げ、あとは、友達の住んでいる地方や、旅行で行ったことのある地方とか、地図や思い出を頭の中に浮かべながらのお買いもの。

こうなると、お買いものもちょっとした旅気分ですね。

「魚見知り」なく [2007年11月08日(木)]
おへそに手をあてていたら、浮かんだことと言えば、今晩何を食べようかな、でした。

お腹がすいているときは、早くお料理ができて、すぐに食べたいですよね。そんなときは、一汁一菜、つまり、ご飯のほかに汁物と一種類のおかず、簡単メニューが一番。お米をといで、笊にあげ、お鍋にはった水に出し昆布を放りこんだら、魚を買いに走る……、これは日本で暮らしていたころと変わりません。

変ったのは私ではなく、魚売り場の魚たちの様相。

「おっ、青々として旨そうな魚じゃ」「う〜ん、このシャキッとした姿、よく黒潮にもまれてきたのぅ」「いいねえ、この時期は。身がぷりっとしいて、あぶらものってるし」と、魚たちが成仏できること間違いなしの食いっぷりが想像できる、魚売り場前の私。

処変わると……。



「んっ、青いのはいいが、やけに青いな」「えっ、こっちは赤いし、あっちは虹色、いったい身の色は何色なんだ」「えっと、君は水槽から来たのかな」「うーむ、姿かたちよりも大事なのは中身、とはいえ、このかたちはちょっとなぁ」となるわけで。

このころやっと人見知り、いいえ、魚見知りがなくなり、「どぅれ、食べちゃうぞぉ〜」と脅かせるようになってきたところなのです。

人見知りというのは見知らぬ人に対しておこるのであって、見知った人にはおこりませんよね。つまり、魚見知りをしていた私は、魚を見知ってきたというわけです。

まず、ハワイの魚料理といったら一番手にあがるのは、ポケ。これは生の魚の切り身を漬けたものです。アヒ(キハダマグロ)のものが圧倒的に多いですが、ほかにも、アク(かつお)、タコ、オピヒ(貝)、蟹などがポケに使われます。



味付けは天然塩、ククイナッツを砕いたもの、リム(海藻)、醤油、ごま油などを使うのですが、日本の魚料理の漬けと似ていて、馴染みやすいもの。一口大に切ったものなので、食べやすく、おかずにもププス(おつまみ)にも最適。たいていは、魚などの切り身のほかに玉ねぎやネギを刻んだものと和えます。

売り場などをのぞくと、キムチ味、海苔ふりかけ味、ワサビ風味など、バリエーションはとっても豊富、もっともシンプルなものを買ってかえって、家でオリジナルの味付け、合わせを楽しむのもあり。私は、納豆や胡瓜、大根おろしと混ぜて和風おかずにしたり、他の野菜と一緒にマリネしたり、ときには食べ残しを炒めものにしたりもします。

ところが私のお腹ときたら、しばらくすると、いつも馴染みやすい顔ばかりでは、と、ほかの魚たちに興味津々。まずは、作れるようになるには食べなくては、と、美味しいと聞く魚料理を食べることに専念。でも、美味しいければ美味しいほど、「食べるばかりではなく、自分でだって作りたい!」 

そこで、元船乗り、元板前の我が夫に指南役をお願いしたのです。

「魚臭いの嫌いなんだよね」「え、じゃあ、いままで鼻つまんで仕事していたの?」「新鮮な魚って臭くないんだよ」 つまり、新鮮かどうかを見分けるには、匂いをかげばいいのです。臭くない魚を買って帰ることだけはできるようになり、次は料理法を学ぶことに。

「ハワイの魚はね、あぶらがのってないから、たいていの魚は揚げ物にするといいよ。ほら、この間もフライド・アクレ(あじの揚げ物)の定食、美味しいって食べていたでしょ」

これを聞いて、どれだけ目の前が暗くなったことか……。自称・料理好きの私、お料理上手との褒め言葉を素直に受け取ってしまう私、なんと、揚げ物料理が大の苦手だったのです。しかし、そんなことは我が夫は百も承知。薄ら笑いを浮かべながら、こう言いました。

「魚にね、粉をつけて、揚げ物にするとちょうどいいよ。でも、揚げ物するとき、油の入った鍋に、遠くから魚を投げ込んだら危ないよ」

日本のガスコンロと違って、火加減が見えない電気コンロ、油の温度の調節をどうやってするんだろうという不安、油がピチバチはねるに決まっているという思い込みによる、揚げ物恐怖症。家で作る揚げ物のほうがヘルシーに決まっているのに、「外で揚げ物食べることが多いんだから、家では揚げ物する必要がないよね」と家族をマインドコントロールまでしていたのです。

しかし、食欲は恐怖よりも強し。

昨晩、これが新鮮で旨いに違いない、それに名前もかわいいし、と買ってきた「ムーン・フィッシュ」を揚げ物に。

「ねぇ、ムーン・フィッシュってどんなお魚? 切り身で売っているってことは、大きいの?」
「このくらいで、赤い魚だよ」
「げっ、どんな赤い色? まさか、食欲失うような赤色じゃないでしょうね」
「えっと、えっと、鯛の仲間だよ」
「あらっ、素敵、赤い鯛なんてお目出度いし! 高級感たっぷり!」

お目出度いのは私のほうなのでしょうけれど、魚見知りもなくなり、揚げ物恐怖も解消できた、私の食欲に、おへそに手をあてて感謝しなくていけないですよね。

色、いろいろ、サラダ [2007年09月03日(月)]
春はもえ 夏は緑にくれないの しみ色に見ゆる秋の山かも

「万葉集にあるこの歌は、緑という色が万葉集の時代からあったという証拠なんだよ。緑色という色の名前が新しいものだというのは間違いなんだ」と教えてくれたのは、某印刷会社のおじさまでした。

「草が青々としているね」「この実はまだ青いね」などという言葉を、みなさんも使いますよね。でも、草や実が真っ青というわけではない……。つまり、主に植物が緑に色づいてくることを、青いという言葉で表現しているわけです。

その理由について、昔の日本の人は緑と青を区別していなかったのではないか、とか、昔は緑色の染物をするときに黄色味を出す染料で先に染め、あとで藍色を足して、緑色を染めたからではないか、という説などがあるようですが、私はこのような色談義を聞くとうれしくなってしまいます。

なぜなら、私は大の色好き。特に食べ物の色が好きで、色に見とれて野菜に手を伸ばしたり、果物をキッチンに並べたり。色味という言葉があるように、色も味がするので、食いしん坊の私としては、どうしても色も食べたくなってしまうのです。

最近のお気に入りは“虹色のサラダ”。

といっても、虹のなかのいろいろな色をとりまぜたサラダではなく、赤色サラダ、橙色サラダ、黄色サラダ……、というように、色味を選んで楽しみます。ハワイ州は州の別名がレインボウ・ステイツ(虹の州)と呼ばれるほど虹がかかりやすいところ。私が虹を楽しむときは、つい、あの赤色のなかにどのくらいの赤色が見えるかな、あの青色から紫色に変わるあたりの色合いがたまらないね、とか、色好き丸出し。

今日は、セロリの緑、お豆の緑、オクラの緑を合わせた、緑色サラダです。いろんな緑色を食べて、体が緑色に染まっていく気分。このまま、虹に飛び込めそうです。



イチゴとベルペッパーとトマトの赤色サラダ、ニンジンとオレンジとマッシュルームの橙色サラダ、トウモロコシとグレープフルーツとオリーブの黄色サラダ、アスパラガスとクレソンとアルファルファの緑色サラダ、ブルーベリーとプルーンとチーズの青色サラダ、モロカイスイートポテトとブドウと紫キャベツの紫色サラダ……。

オイルとハワイアンソルトと特製昆布入りお酢をベースに、スパイスや調味料で簡単なドレッシングを作って、食べる少し前にかけておくと、朝ごはんをしっかり食べる私にはぴったりの一皿、いえいえ、大きなボウルいっぱいのサラダの出来上がりです。

今日の私は“緑人・ミドリビト”ということで……。

フルーツな暮らし [2007年08月07日(火)]
私は「フルーツ人(びと)」。

生まれたところが果物の名産地として名高い山梨県だったせいか、おやつに果物ばかり用意してくれた母のせいか……。どちらも本当ですが、私が「フルーツ人(びと)」となった原因なのかどうかはわかりません。

とはいえ、葡萄、桃、柿、さくらんぼ、すもも、杏、梨、林檎を山梨県の祖父母から、そして、愛媛県の伯母が送ってくれていた蜜柑、夏蜜柑、伊予柑、八朔。加えて、苺、西瓜などの季節の果物、山や野原に実るアケビ、グミ、枇杷、桑、野苺、山葡萄、イチジク……、と一年中果物を食べる暮らしが、原因の一端であることは間違いないでしょう。

「フルーツ人(びと)」は毎日欠かさず果物を食べ、一日にとる食事の三割から四割が果物であることが、私的定義であります。

たとえば、昨日の私の食事はこんな具合。

朝食:レーズン入りベーグル・バナナ・桃・コーヒー
昼食:チキンとパパイヤのスープ・ご飯・パイナップルアイスティ
夕食:野菜の煮物・アヒポケ(マグロの赤身のヅケ)・ご飯
食後のデザート:マンゴー

私が、マウイ島で暮らしていける理由は、マウイ島も「フルーツ人(びと)」にやさしいところだからです。とれたてのバナナ、パパイヤ、マンゴー、グアバ、パイナップル、どれも瑞々しくて、マウイの太陽いっぱいの味。ハワイの果物を代表するにはふさわしい実力派ぞろいです。

しかし、今回「フルーツ人(びと)」がご紹介したいのは、ただのオレンジなのです。さきほど、お隣のおばあちゃまの家からいただいてきました。みかけは、あまりよくないですと、先に申し上げておきましょう。というのも、オレンジと聞いてみなさんが想像するのは、目が覚めるようなきれいな色をして、お店で売られているものだからです。

そのきれいなオレンジと区別して、ローカルオレンジと呼ばれるこのオレンジは、皮は固く、きたない茶色いシミもあり、冴えないオレンジ色に、ちょっとまだ早いかなと思えるくらいの青みがあります。お店でみかけても、あら美味しそう、と駆け寄りたくなることもありません。

でも、その美味しさといったら!

すっきりと甘く、香りは口に鼻に頭にぬけ、お腹から体全体にエネルギーが満ちていくのを感じることができるほど! 私ときたら、この媚びないオレンジにすっかり恋に落ちてしまい、籠をぶらさげて、おばあちゃまの家に足繁く通ってしまうのです。恋心って、人間に対してだけではなくって、食べ物にも湧くものなのね、とつぶやきながら。人と果物はその境界線を時に越えてしまうのかもしれません。

ところが、私のような恋をしている人が、ほかにもいらっしゃるらしく、最近はお店でもローカルオレンジを見かけるようになりました。みなさま、どうぞお見逃しなく、そして、潔く、媚びない恋の味をお楽しみくださいませ。


プロフィール
神宮寺愛
エッセイスト×フラダンサー
東京での出版社勤務を経て、現在はエッセイストとして活動。マウイ島ワイルク在住。著書『心と体がピュアになるハワイアンな暮らし』(青春出版社・刊)他。フラやハワイ語等を学ぶダンサーでもあり、カノエアウダンスアカデミー所属。現在カアナパリビーチホテルのディナーショーにレギュラー出演中。