いよいよ、「女が男をふんぎる時」というテーマで書いた短編小説三部作の最後の作品です。
一作めが
此方、二作めが
此方です。
通して読んでくださると、「ああ、なるほど、女が男をふんぎる時だな

」という感じだと思うので、よければこちらも読んでみてくださいね。
その昔、これをダイバーの友人に読んでもらった時に、「ダイバーのイメージが悪くなるからこんなの書くな」と言われたことがありますが。。。まあ、そうですね、あまりいいイメージではなかったですね。
日々精進しておられる現役ダイバーの皆さんに今のうちに謝っておきます。
スミマセン

ちょびっと性的な描写が含まれてますので、そういうのが苦手な方はスルーして下さい

よろしくお願いします。
では、はじまりはじまり
タイトルは「冬の想い出」です。
「冬の想い出」
僕はダイビングをしているから夏は忙しいんだよ、と彼は言った。
真っ黒に日焼けしたその顔に真っ白な歯をほころばせて、私を見つめた。
君にもう一度、そう冬に会いたいな、冬に会って、もう一度君を抱きたいな。
彼の顔は相変わらず笑っていたけれど、瞳は寂しさをたたえていた。
私はその年から、冬を待ち焦がれるようになった。
寒さに弱い私が、冬を大好きになった。
でも、あれから三回目の冬を迎えたけれど、彼からは何の連絡もなかった。
リゾート地のガイドダイバーのたわ言だったとわかっていても、彼の涼しげな瞳は私の心から離れなかった。
よし彼に会いに行こう。
私は立ち上がると、友人のK子に電話した。
K子は、彼に会いに行くんだったらよしなさい、と言ったけれど、結局私のために航空チケットの手配を約束した。
出発は三日後の土曜日。
急な話だったけれど、シーズンオフだから大丈夫だとK子は言った。
空港のロビーに到着すると、思いがけず彼が目の前の椅子に腰かけていた。
私に驚く暇も与えずにツカツカと近づいてきて、右手を差し出し握手を求めてきた。
久しぶりだね。
あの時の笑顔を見せてくれた。
私はその瞬間、体が熱く溶け出すのを感じた。
彼を最後に男性との関係が途絶えていたことを思い出した。
激しく血が逆流するのを止めることができなかった。
私をこのままホテルへ連れてって。
彼は黙ってうなづくと、タクシーで私を予約していたホテルへと運んだ。
彼は私の重い荷物を部屋に運び入れてくれた。
私が部屋の隅に置かれた荷物を眺めていると、彼は用があるから今日は帰る、と言った。
ダメ。
私は思いがけず強い口調で彼を引き止めていた。
ドアをさえぎり、彼の行く手をはばんだ。
私はゆっくりとボタンに手をかけ、服を脱ぎ始めた。
そして、彼の目の前に裸体をさらけ出した。
彼はしばらくの間、私の様を驚いて見ていたけれど、やがてたまりかねたように私をきつく抱き締め、ドアに押しつけてきた。
愛撫もなにもない。
優しい言葉もなく、彼は無言だった。
しかし、彼の荒々しい仕草がなぜか私に優越感を与えた。
なぜ、こんなに突然に……
二年半、毎日彼を想う時に思い出していた、あの時の彼の笑顔を見たこと、それだけで愛撫は始まり、そして終わった。
私はそれだけで泣きたくなるほど彼に抱いてもらいたくなった。
理由などなかった。
明日また来るよ。
彼は服をなおしながら、照れ笑いを浮かべた。
私は軽くうなづいた。
じゃ、俺急ぐから。
彼はそそくさと出て行った。
翌朝、私は朝一番の飛行機の中だった。
窓から見る島はどんどん小さくなった。
私は目を閉じ、これでよかったんだとつぶやいた。
朝起きたとき、天井を見て自分の部屋ではないことに気づいた。
私はベッドに起き直ると、彼は来るかしら? と考えてみた。
きっと彼は来ないだろう。
二年半、私と遠い場所に離れて平気だった男、そう……もし来るとしたら、きっと今日も私を抱きに来るのだろう。
私はベッドからおりると、服を着替えて、荷物を整理した。
昨日私を抱いた時の彼の仕草に子どもじみたものを感じ、優越感に浸ったことは、私にとって大きな出来事だった。
遠くて、はかなくて、憧れでしかなく、手を伸ばしても届かないはずの彼は、思いがけず、すぐに手の中に納まってしまった。
私は再び彼に裏切られ、彼をひたすら待つ身になる自分が怖かった。
このまま帰ろう。
身をつくしても逢わむとぞ思う……ふと百人一首の中の歌を思い出した。
しばらくすると、彼の私を呼ぶ声が聞こえてきた。
必死に私を捜していた。
どうやら今度は彼の方が私を忘れられなくなったらしい。
私は優しく微笑んだが、彼の元へは行かなかった。
物陰に隠れたまま、彼の様子を眺めていた。
目をさますとそれは夢に違いなかった。
彼が私を捜すはずなどなかった。
私は浅い夢に身をゆだねながら、この夢がこの先ずっと醒めないようにと願った。
あなたは彼に会うといいワ。
そう、あとで思ったの。
K子はバーのカウンターで長い髪をかきあげながら、つぶやくように言った。
それで彼の所属しているリゾートホテルに連絡して、彼を迎えにやらせたのよ。
K子は私のためにしたことを、たらたらと話していたが、私にはもはや過ぎ去ったことで、どうでもよいことだった。
ねえK子。あの男の子たちさっきから私たちのこと見てる。
K子は視線をバーの中で泳がせていた。
あら素敵じゃない。
K子はパッと華やかな顔になった。
ねえ君たち、二人なの?
彼らは洒落た服に身を包み、にこやかに微笑んでいた。
私は次に出会う素敵な人を受け入れることができるようになっている自分に驚き、そして、そんな自分が嬉しかった。
完