最初に世に問うた作品は「sleeping men」というタイトルの写真集だったね。
2000年に出したんだ、扇出版の森田さんとこ、そうあの有名な。
工事現場の路上や、タクシーの運転席、あるいは芝居小屋の床の上など、とにかくベッド以外の場所で過酷な労働の合間を縫うようにして、わずかな睡眠をむさぼる男をテーマに数々の写真を撮ったね。
撮影には1年半ぐらいかかったかな。深夜から早朝に撮って、そのまま普通にバイト行ってましたから、あんときゃ辛かった、よくやったな、オレって感じですよ。
まぁ、そんな話はおいといて、この作品集で僕が何を伝えたかったかというと、まぁ簡単に言えば、最近メディアでやたら虐げられてるオヤジの存在、だけど、オヤジはがんばってる。
オヤジはカッコいいってことを伝えたかったんだな。
まぁそれなりに雑誌やなんかに取り上げてもらって、いくつか賞ももらったし、それなりに意義のある仕事だったと思ってる。
それから次の作品集は女性の肌の重なり合う部分、たとえばひざとか肘とか、胸とか、そういう部分にオイルやスキムミルクを垂らして、マクロで撮り貯めたモノを「スキン」というタイトルの写真集で出したんだ。
その中で一番気に入っているのは、30ぐらいのフランス人女性の写真で、鎖骨と首すじと肩の交差する辺りを撮ったものでね。
肩のラインによっては、そういう写真がヌードよりも、よりエロティックになる瞬間ってのがあるんだな。
彼女名前はなんてったけなぁ、そうそうアニエスっていったな。
アニエスの思い付きで、鎖骨にピンク色のオイルをたっぷりと垂らしたんだよ。
ほんの遊び心でね。
あごの線の辺りに小さなそばかすがたくさんあって、それが鎖骨に溜まったオイルの色と似ていて、あれはいい感じに撮れたなって思う。
あの写真にだけタイトルがあったでしょう、そうそう「LAC」って。
フランス語で湖って意味ですよ。
鎖骨のオイルがまるで日に染まった湖みたいだなぁ、ってそう感じたんだよね。
あれは狙い通り、いやある意味、期待した以上の写真になったと思ってる。
アニエスは勘のいい女性でね、あの作品が出て、まぁ色んなとこからボチボチと話が来るようになって、あのモデルと出合ったのも運が良かったんだろうね。
今頃彼女はどこで何をしてんのかな。
『アニエス、この記事見たら連絡ちょうだい』なんて、私的なことに利用しちゃっていいでしょうか?
そうそう、オリガの話だったね。
オリガの名前は聞いたことありますよね。
そう、ロシアからアメリカに渡った超一級のバレリーナだね。
そのオリガが日本に住んでいるって情報を得て会いに行ったんだ。
ヌードを撮らせてもらおうと思って。
あの頃、次のテーマを探している最中でね。
迷ったらヌード、つまり原点回帰ってことかな。
なにはともあれ世界的バレリーナのヌードを撮っておこうと思ったわけですよ。
口説き落とす自信はあったな。
彼女は限りなく美しい肢体の持ち主だったから、彼女もきっと残しておきたいと思うだろうって、そう踏んでたんだけど。
僕は初対面の時にはカメラを持たないようにしているんだ。
なぜって相手に余計な警戒心を持たれるからね。
最初は簡単な挨拶と、とにかく気心が知れるよう会話を重ねるんだ。
ところが会ってみて驚いたよ。
オリガには昔の面影がまったく残っていなかったんだな。
率直に言ってしまえば、恐ろしいほどに太っていたんだ。
僕は鎖骨の窪みとか、首筋の細さとか、そういうのをオリガに期待していたんだけど、彼女の鎖骨は肉に埋もれてしまって、どこを探しても見当たらなかったんだ。
不思議だったね。
昔どこかでダンサーは太りにくいって話を聞いたことがあったからね。
彼女のダンサー時代の写真と見比べて、どうしたらこんなに太れるんだ? て神秘的な想いすら抱いたものだよ。
それもこれも彼女の話を聞いているうちに全て「わかったよ」って気になったもんだよ。
「わかったよオリガ」って、そう言いたくなったんだ。
本当にわかったんだ。
オリガの部屋を出てから、僕はもう新しいテーマと出会っていた。
僕の姉にも関わってくる話なんだが。
うん、ちゃんと姉には了解をとっている、姉のことを公けの場で口にするのは、なかなかセンシティブな問題だからね。
あぁ、こんなこと言うと逆に叱られそうだな。
姉は特に気にしている様子ではないからね。
いや、気にしているんですよ、そりゃ誰よりも、きっと。
でも、自分は美しいと思っている。
それは勘違いなんかじゃなくて、姉のいる世界では姉はまぎれもなく美しいんです。
僕はそのことをアナタに証明することさえできますよ。
つまりこういうことでね、僕の思う美の基準と姉の基準が違ってしまったってだけなんだ。
まぁこの話はまた次回ということになるのかな。
そうそう、まずはオリガの話。
オリガの話を聞いてもらおう。
それから姉の話を聞いてもらった方がいいと思う。
そうすれば、僕の次の作品集への想いも理解してもらえると思うから。
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この話は元々書きたいラストシーンがあって、書き始めた話なんだじょ。
ラストシーンは怖くないじょ。
でも話はどうなっていくか、今のところpappoにもわからにゃいにょ