タイトル「まさにそのことが問題だ」という3部作の一作めです。
あと二作品、構想だけはありますが、そのうちに書こうと思います。
これは最近起きた恐ろしい事件をモチーフに書きました。
タイトル「締め出す」
おかえりと娘を迎える。
娘は表情を変えず、自室へと急ぐ。
なんとか引きとめようと「ご飯は?」と声をかけるが、後ろ手でドアを閉じられる。
十分経ち、二十分経ち、三十分経ち、私と妻はようやく顔を見合わせる。
打ち合わせ通りにやるのだ、と妻の目は私に語りかける。
私は娘の部屋の前に立ち、「入るぞ」と声をかけ、わざと返事を待たずにドアを開ける。
妻は私の背中に隠れるようにして、じっと息を殺している。
娘は幾何学模様の紙にたくさんの米粒を並べている。
その上にお札のようなものを置き、口の中で何かブツブツと唱え始める。
そして米粒を口の中に放り込み始める。
唖然とする私の背後からサッと妻が動いて、無言で娘のやつれて骨ばった腕をつかむ。
娘も口をきかず、目も合わせようともせず、ひたすら米を口の中に放り込み続ける。
妻はようやく「やめて」と短く言う。
母が娘に哀願するその様を見て、いつのまにか事態はここまで進んでいるのだ、と私は愕然とする。
どうすればいいのか? と自問する。
こんな時の回答は持ち合わせていない、と思う。
逃げ出したいと思うが足がすくむ。
娘はガリガリと音を立て、米を噛み砕く。
妻の手を振り払い、両手でむさぼるように米を口に放り込む。
邪魔されてたまるか、とでも思っているような形相になる。
娘の、見たことのない顔がそこにある。
娘は、熱のこもった赤く、充血した鬼のような眼で私をにらんだかと思うと、いきなり自分の母親を突き飛ばす。
そして私に叫ぶ。
「出て行きなさい」と。
そして次の瞬間には激した心が急激に冷えたように、静かな声で「出て行きなさい」と言う。
妻に眼をやると、ポカンと口をあけ、床の上を動かずにいる。
ひっそりと息をつめているのがわかる。
私はゆっくりと娘に視線を戻す。
娘はじっと私を見ている。
頭蓋にはりついた薄い皮膚に空洞のように穿たれた双眸が、暗い洞窟のようにこちらを見ている。
父親の私を、他人を見るように、いや、何か別の生物を見るように。
にらむというのでもなく、さげずむというのでもなく、ただ静かにこちらを見ている。
そして宣告する、「アナタは堕落しています」と。
私がか、と心で叫ぶ。
妻では、なく、この私が、か、と。
なぜ一瞬そう考えるのか、妻ではなく私なのか、などと考えるのか。
そもそも見るからに異常をはらんだ娘の言葉を真に受ける自分とはなんなのか。
私は答えの出ない自問を繰り返す。
再び「出て行きなさい」という娘の静かな声が遠くに聞こえる。
私は諭された子供のように、床を見続ける妻の背中を見捨てて、
娘の顔は見ずにそのまま部屋の扉を閉める。
小さな音がしてドアが完全に閉まった瞬間、私が妻を置いてけぼりにしたのではなく、この私が埒外に置かれたのだ、と気づく。
埒外に置かれたのはこの私なのだ、と急激にしかも深く自覚する。
私は大変な間違いをしでかしたことに気づくが、もうドアを開くことができない。
ノブに手を伸ばすことさえできない。
二度と戻れない、とても遠い場所に来てしまったことに気づく。
ハッと見ると、目の前のドアが消えてなくなっている。
そして娘の部屋も、娘も妻も、すべてが視界から消え失せている。
足元を見ると、見たこともない知らない場所に私は一人で立っている。
完
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実はこのお話はこれでおしまいなんだじょ。
またいつか続きができるかもしらんけど、今んとこ、ここまでしかお話がないんだじょ。
コメ喰うムスメのココロの秘密は内緒にしときゅから、玉ちゃん考えてみてくりぇね