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『関扉』と福助

2008年10月28日(火) 23:36
関容子さんのエッセイはどれも読んでいて楽しい。『歌右衛門合せ鏡』(文藝春秋社 2002)は中でも格別。ご本人とまわりの縁のあるひとたちのヒアリングによって、六代目歌右衛門の人間像が、生き生きと描き出されている。その中に、福助と『関扉』(せきのと)との出会いに関する興味深い話を見つけた。



福助がまだ10代の頃、役者になる決心をしたきっかけがこの演目だったという。毎日、黒衣姿で舞台そでから六世歌右衛門の薄墨桜の精を観ながら、体の芯から歌右衛門の薄墨桜の精に魅せられて人生を決めたのだという。



今年三月、福助は歌舞伎座で関扉を演じた。

福助という人の可能性や魅力が観る者に余すとこなく伝わってくるような作品だった。他の演目とどのようにちがって、どこがどうしっくりいくのかうまく説明ができないが、とにかく圧巻だった。福助はどちらかというと黒地の着物を粋に着こなす芸者や、薄墨桜の精のような憂いや陰のある役柄がよく似合う。



『歌右衛門合せ鏡』によると、関扉は歌右衛門にとってもたいへんゆかりの深い演目であるという。



+ + +


人生を決めた小町姫



福助さんは、血のつながる大叔父歌右衛門から怒られることにかけては「ベスト・ワンだったね」と梅玉さんのお墨付きをもらっている。それくらい親密な関係だった。



「芸のこと、行儀のこと、何かにつけて怒られてました。時にはみんなの犠牲(いけにえ)になって怒られることもあって、たとえば道成寺の坊主は白く塗ってあるのがお好きなんです。坊さんが綺麗なほうが花子も引き立つ、という考え方。ぼくはは比較的白く塗ってるほうなのに、汚いよお前さん、粉貸してごらん、パンパンパン、って刷毛で顔を叩かれて。次の日からはみんな真っ白(笑)。一番怒りやすかったんでしょうね。でも怒られても平気だった。だっておじさんが好きなんだもん」



福助さんは子役のころ、芝翫の長男として半ば強制的に舞台に出されていたが、そのことに反撥も感じたし、むしろ学校が好きな少年だった。



その後、芝居と学校との両立がうまくいかないと思ったとき、自分で役者を選んで、高校を中退する。昭和五十四年のことだった。



「それで最初に接したのが、岡本町の『関扉』で、小町姫と墨染だったんです。五月の歌舞伎座でした。舞台の袖に毎日黒衣着て座って、ずっと見てて、芯から打ちひしがれてしまいました。とっても心の移ろいがわかりやすくて、すごいもんだなぁ、と思いましたね。こういうものが近くになるのに、なぜ今まで見なかったんだろう、と悔やみましたけど、でも思春期の一番感じやすいときに強烈な出会いをして、かえってよかったのかもしれない。あの小町姫に、ほくは人生を決められちゃったんですから」(以下、省略)




『歌右衛門合せ鏡』(関容子著 文藝春秋社 2002)p125〜130より引用しました。






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5 人間歌右衛門を語る






目次:




雪月花(奥津城まで)


小春日(子供のころ

ガルボ、バワーズ、グレース・ケリー ほか)

合せ鏡(師として父として

新居の壁のパンダ ほか)

反魂香(歌右衛門の光と闇)




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