関口知宏さんが、気になる。
日本で一筆書きの鉄道紀行をしていた頃から、そのゆる〜いお人柄、ゆる〜い旅の様子、それとは対称的な多彩ぶり(イラストや音楽)が、なんとな〜く気になっていた。
お父上に似ているような似ていないような顔立ちと声が、近所のおばちゃん的なヤジウマ根性も刺激したのだと思う。
彼のことが「なんだか気になった」人は私以外にも多かったようで、鉄道旅には続編ができた。関口さんは日本の一筆書き旅を終えると、スイスやらトルコやらカナダやらへと、日本を飛び出して鉄道旅に出かけ、行く先々で絵を描いたり、現地語の歌を作ったりし始めた。
海外に出ても、相変わらず気張らずゆる〜い旅だったが、そのゆる〜い旅がまた味わい深く、続編に次ぐ続編が制作され、関口さんは「このかた2年旅しかしていない」のだそうだ。
その関口さんが、今中国で鉄道の旅を続けている。それが、
『関口知宏の中国鉄道大紀行』。
4月初めにラサを出発し、二ヶ月かけて延々西安までの鉄道の旅。これが春の旅。なんと秋には、西安からさらに旅を続けるという。
この関口さんの中国語が、かなりいい感じだ。
中国の鉄道という思いっきりローカルな環境にどっぷりつかり、さらには通訳さんがずっとつきっきりとは言え、かなりお上手なほうに入ると思う。
いやいや、すらすら、ペラペラ話せるということではないのだ。私が「うまい」というのは、発音のこと。
中国語の発音はとても難しいと言われる。舌を上あごにつけたりくるりと巻いてみたり、息を強く吐き出してみたりぐっとおさえてみたり、「ウ」の口で「イ」だの「エ」の口で「オ」だの、なんとも複雑怪奇。
それに加えて中国語には「声調」というまたまた面倒なものがあって、これが学習者泣かせなのだ。
「四声」といって、全部で四種類。
・高い音域でまっすぐのばす「一声」
(バットでボールを「カーン」と打つ時の「カーン」)、
・低音から高音まで一気に上げる「二声」
(びっくりして思わず「エエッ?」と声をあげる、の「エエッ?」)、
・低く抑えてその勢いでちょろっと上がる「三声」
(がっかりした時の「アァア」)、
・高音から低音まで一気に下げる「四声」
(カラスの鳴き声の「カア」)だ。
関口さんは、この声調がほとんどぶれない。そり舌だのまき舌だのも、かなり正確に発音できているほうに入る。
この「声調」がぶれない、つまり音の上げ下げが正確というのは、中国語を話す上でものすごく大切。ひとつひとつの発音よりも、声調が合っているかどうかで、中国語が通じる通じないが決まるといっても過言ではない。
例えば、右と左。
右は中国語で「you4」。「you」が発音で、「4」は第四声のことなので、つまり、「カア」のイントネーションで「ヨウ」と言う。
左は中国語で「zuo3」。これは第三声だから、「アァア」のイントネーションで「ズオ」と言う。
「右に行って!」と言いたい時に、 正しく「向右」と言っているにも関わらず、「左」の声調と間違えて「you3」(「アァア」で「ヨウ」)と言ったりすると、通じないことが多い。
逆に、右と左を間違って「向左」と言っているのに、声調だけは「右」の声調である第四声で「zuo4」(「カア」で「ズオ」)と言うと、これが意外に通じちゃったりするんだなあ。
中国語における声調はかくも重要なのだけれど、これがホントに中国語学習者泣かせで、マスターするのに苦労している人がとても多い。特に高齢になってから中国語学習を始めて方は、かなり骨を折っていらっしゃるようだ。
先生が発音した直後にそっくりそのまま真似ているつもりでも、実際には全く違う声調。何度直しても、やっぱり違う。もしかしら、どこがどう違うのかすら、自分では分からないのかもしれない。
ところが、ある程度の年齢になってから中国語を始めても、ほとんど苦労なく中国人の言った通りに声調を覚えられる人がまれにいる。こういう方たちは、いったん覚えたら声調がぶれることも少ない。
こうした方たちに共通するのは、音感がいいこと。バンドをやっていたとか、歌が上手いとか、音楽面で長けている人が多いのだ。
逆に言うと、声調がまねできないのは音感が悪いからなのではないかと、私は思っている。耳で聞き取れていない、イントネーションというかメロディとして認識できていないから、それを繰り返すことができないのだ。
私が初めて中国語を意識した時、「なんて音楽的な言語なのだろう」と思った。実際に学習し始めて、上がったり、下がったり、低く抑えたり、高くのばしたりと、四つの声調が楽譜のようにつながっていくのが中国語だと改めて感じた。中国語はとても美しい言語だ。
音楽がお好きな音感のいい関口さんは、中国語学習にとても向いている(断言)。カンもいい。今回の春の旅、そして秋の旅で、どれだけ中国語が上達するか、それもまた楽しみだ。