CNNによる各種世論調査の平均値「Poll of Polls」でもオバマのリードが10パーセントを超えた今、マケインのrunning mate(副大統領候補)サラ・ペイリンの賞味期限もあと2週間だろうなあ、ということで。
ペイリンは、オバマを支持しきれないヒラリー・クリントン派の女性を取り込むことを主目的としてマケインの一本釣りにあった女性。実際、党大会で彼女の存在が明るみに出ると(まさに文字どおり。それまではわずかなオタクとアラスカ州住民しか彼女のことを知らなかったはずだ)、気のきいたというかパンチのあるスピーチのセリフでいっときフィーバーを巻き起こした。女性もかなりなびいた。
で、それから2か月。今でもペイリンフィーバーは終わったわけじゃない。でも、それがどんなフィーバーかというと、それは「少女アイドルのファンクラブ」になってしまった。たとえば昨日のニューヨークタイムズの記事:
Among Rock-Ribbed Fans of Palin, Dudes Rule
政治集会で「クラクラ来ちゃうぜ!」「結婚して!」とか言う人がいること自体驚きだが(いや、“オバマ・ガール”ってのがいましたな)、ペイリンの集会に集まるのはもはや男性ばかり。それも政治信条なんかじゃなくて、彼女の存在自体が好き、という人たち。どんなところが好きなのか取材してみたようだけど、どうやら紙面に載せるのははばかられた様子。言うまでもなく、女性はとっくの昔に離れた。
先のエントリーで、バイデンとのディベートに臨んだペイリンの目が死んでてコワかったと書いたが、くしくもウォールストリート・ジャーナルのコラムニスト、ペギー・ヌーナンが「(ペイリンは)物をはっきり考えていない。単に口に出しているだけだ」「真剣に話しているわけではなく、単に場を盛り上げようとしているだけ」と
書いている。これは、ディベートでイタコみたいにしゃべっているときだけでなく、集会などでするスピーチでも変わらない。特に集会でオバマの悪口を言う時のペイリンの目は、メガネ(
ちなみに日本製)の奥でらんらんと光り、オバマのあることないことをいかにも楽しげに、聴衆を煽る効果満載でしゃべる。シカゴを拠点に活動した過激派活動家とつながりがあるとか(たしかに、その後教育学の教授となった活動家とオバマは社会活動系の組織でつながりができるのだが、この人物がテロリストと呼ばれる活動家だったころ、オバマは8歳だった)、オバマの経済政策は社会主義だとか(社会主義、socialismという言葉は、日本人の想像をはるかに超えてアメリカ人にアレルギーを引き起こす。分かって使っているのは明白だ。必ず決め台詞として口にするから)。マケイン陣営は負けを意識してネガティブキャンペーンに磨きがかかるようになり、その先鋒を切っているのがペイリンなんだと思うが、嬉々として、いや、ネガティブキャンペーンのためのネガティブキャンペーン、いや、つまりヌーナンの書いたことは正しい。彼女は何も考えずにあんなに毒の強いことをしゃべっているから、生理的に奇妙な感じすら覚える。ええい、誤解を怖れずに言えば、気持ち悪いです。
「ホッケーママとただガツガツした人の違いは口紅」というスピーチでブレイクしたペイリン。自らの「口紅」性を強く意識していることには当初から違和感があった。美人でやり手で、結婚して子どもも育てて、というスーパーウーマンの自己像を持っていることも伝わってきて、それも変だと思った。彼女のバイオを調べると、高校時代に出場したミスコンテストで2位になり、その賞金で大学に通ったそうだ。文字どおり自分(=女性性、容姿)を資本にして、パワー(実力と権力、どちらにも訳せる言葉だ)への道を切り開いた人物と言える。
それからもう20年は経っているはずなのだが、ペイリンの女性性、容姿という資本は涸渇していない。それどころか、アラスカの田舎町の市長から州知事、そしてアメリカ副大統領候補に抜擢されるまでに活用されている。その証拠に、ペイリンのスカートは今でも、メディアに露出する女性(セレブ系は除く)の平均よりちょっとだけ、短い。ヒールの高さもちょっとだけ、高い。そもそも、公の場で(高いステージに上がってスピーチする時でも)パンツ姿でいるところをほとんど見かけない。
ヒラリー・クリントンはセンスがあまりおよろしくないことが有名なので比較対象にならないが、連邦下院議長のナンシー・ペロシなんかと比べると明白。ペロシの家は代々政治家一家で裕福なので、アメリカの政治家の中でも彼女の服にはお金がかかっている。でも、それがあんまりイヤミじゃない。もう60を超えている(孫だっている)のに色気があるが、それは誰かに向けられたものではなくて、本人が意識せずともそこはかとなく香ってくるものだ。ペイリンに色気があるとしたら、それは利用するために意識して出しているものなんだろう。だから、遠い国でテレビを見ている日本人(女)にとっては生理的な違和感、ひいては嫌悪感になったし、何も考えていないアメリカ人男性はホルモン系を直接やられてしまったんじゃないかな、と思った次第。
マケインの人選というよりは、アメリカで女性がのし上がっていくことの難しさも感じます。貧乏育ちでダサいと陰口を叩かれても実力でのし上がったヒラリー、家柄の良さのペロシ、そして力を得るために女性性を思いっきり利用したペイリン。同じ女性として考えるところはあるけど、あんたみたいに度胸しかないような女(テレビ初露出のインタビューで連発した言葉は「びびってられませんよ」だった)をアメリカ帝国の第2のリーダーなんかに据えることはできないわ。だって、フェミニズムなんか唱えているうちに戦争が始まって、自分の身が危なくなってしまうもの。
<追記>
いやあ、こんなに長いエントリーなのに、追記します。
ペイリンが自分の女性性をも利用して得たい物、それは表面的には「政治家としての地位、権力」かもしれませんが、深層では「自己実現」しかないように思います。辺境とはいえ一つの州をあずかる政治家として、策がなさすぎるし(やったことといえば、アラスカにとって生命線の産業だからよかったが、単に夫がいる業界、自分の生活に一番近い部分である石油産業の誘致だけ)、副大統領になろうって人が、経済や外交に関して期末テスト並みの詰め込み勉強をするものか?国政に対するビジョンさえ、最初から持ちあわせていないのだ。そんな彼女がなぜ政治家として生き、そして高い地位に乗り出していくのか?それは、アメリカの高校でチアリーダーがちやほやされるような感じ、資質と努力をあわせて初めて得られる、あの達成感が欲しいからじゃないだろうか。何千人と集まる集会で決して品の良くない調子でオバマを攻撃しているペイリンは時おり、何千人から拍手やブーイングなどスピーチの反応を引き出しているだけで満足しているような、陶酔感を感じさせる目つきをする。今を生きていることに満足しているような。こんな人が、よもや間違うと世界のアメリカ大帝国を預かっちゃうのかもしれないと思うと(仮にマケインが大逆転で大統領になった場合、
任期中に70歳を超える<ー10/22追記ーまちがえた!マケインは1936年生まれなので今年72歳。「すでに70歳を超えている」が正しいですが、こないだ辞めた福田さんと同じ年なんですよね。なので年齢論議は一口に言えないところがありますが、マケインはメラノーマという皮膚がんの一種の病歴があるし、今は福田さんと違ってこの先4年を務めるのかどうかって話ですから、やっぱり言っときます>マケインが倒れたら、継承位のトップはもちろんペイリンです)、本当にこわいのです。