男の年のころは31。
どちらかというと大柄なほうで、あまり愛想はよくない。
男は仕事帰り。駅から自宅へ向かう途中。
目の前の大通りで、小さなノラ猫が跳ね飛ばされるのを目撃してしまう。
急いで駆け寄り、抱きかかえると、鼻から耳から血を流している。
たぶん、もう、心臓は動いていない。
でも、そんなことは考えたくないし、とにかくどうにかしなければ。どうにか。
獣医のW先生のところへ、連れて行こう。
W先生なら、いつも優しく診てくれるし、今までも治してくれてたし。
そう、彼の家では絶え間なく猫を飼っているから、近所にかかりつけの獣医がいるのだ。
小さなノラ猫をかかえたまま、小走りに、W先生の自宅の前まで。
しかし、はっと気づけばもう12時。
しばらく考えているうちに、涙がポロポロこぼれ落ちる。
普段は常識的な男からすれば、親しい間柄とはいえ、
こんな夜中に、人様の家のチャイムを鳴らすなんてできない。
でも、どうにかしてほしい、たすけてほしい。
手のひらの上の小さな猫は、
柔らかだけど冷たく、もう動くことはない。
そんなことはわかっているんだけど、どうにかしてほしい。
先生の家の前で、男はしゃくりあげて泣き出してしまった。
おんぼろの、カーキ色のコートを震わせて。
遺体を抱えて、泣きながら帰宅した男は、ペットセメタリーの手配し、
翌日、子猫の遺体を引き取ってもらうことにした。
ペットセメタリーの手数料は、コート一枚分。
毎年おんぼろのモッズコートを愛着している男に、
お皿いっぱいの温かいスウプを食べさせてあげたい、と思った。

『黄色いスウプ』(色んな野菜や色んな豆)
『小松菜のサラダ』(新鮮な小松菜は、生のまま食べるのが好き)
『やわらかいパン』(食パン型だけど、ちぎって食べる)
『キャロブとナッツのケーキ』(ざっくりしとしと。キャロブ大好き)