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  吉實の庖丁 [2006年08月16日(水)]
東京は江東区の亀戸水神駅を西に10分程のところに
私が絶大な信頼を寄せる庖丁の「吉實」があります。

15年以上前、いい庖丁がないかと気にかけていたところ、
江戸物産展で見かけた庖丁のコーナーで、
ダボシャツ姿で庖丁を研ぎ続けている職人さんを見かけました。

その指先を見ると白く巻かれたテープから血がにじんでる。
それでも、そんなこと気にする風でもなく研ぎ続けてる。
それを見て、「ここの庖丁を買いたい」と、直感で思いました。

「あのぉー」と恐る恐る声をかけると、
ちょいと遊び人風のこの人は「おぅ、なんだい?」

「ちょっと良い庖丁が欲しいと思っているんですけど」と言うと、
こちらの顔を見ながら,
「このあたりはどうだい?」と見繕ってくれたのが、
一般に五徳とか言われている庖丁でした。
それを見ている私の顔に、イヤダと書いてあったのでしょうね。
そんじゃ、とばかりに、値段の高いのを並べてくれました。
でもやっぱり五徳
私の顔はたぶん2割ぐらいふくれたんじゃないかな。

「あのー、もっといいのが欲しいんですけど」
「おたくだったらこういう方がいいと思うよ。
 これなら錆びないし、研がなくてすむし。」


あ、完全に料理できない女と思ってる。
そっちがその気なら言わせてもらいましょ。

「そう言うんじゃなくて、もっとキチンとした、
 まともなのがほしいんですよ

「これだって悪かない。」
「私、筋引きも持ってるんです
え?筋引き持ってるの

筋引きとは、肉の処理をするときに使う庖丁で、
大体が肉屋さんで使われます。

「だから高くてもいいんです。いいのが欲しいんです。」
「なんだ、そうか。筋引き持ってんのか。」
 …と、やっと本腰を入れて対応してくれました。

そしてその時買ったのが、これ。



骨剥きと呼ばれる、
鶏肉を骨から外したりするのに使われる庖丁です。
小出刃代わりにいけそうだと思ったんですよ。
今は鯵をおろすときに欠かせない包丁になっています。

牛刀は改めてお店にお邪魔すると言うことで、
この日はこの骨剥きとペティを買いました。

それからのお付き合いですが、
お店に伺うようになって2〜3回目に、
いつもの人じゃない人が出ていらしたんです。

お話しをすると、いつもの人は弟さんだとか。
この時の人はそのお兄さんで、操さんとおっしゃる。

「弟の仕事は粗いからね。
 今度からは私を訪ねていらっしゃい。
 筋引き持ってるんだって?
 そう言う人はいい庖丁を持たなきゃ。
 大丈夫。私がいい庖丁を作ってあげるから。」


通りの良い声でお話しくださる内容は、
とても歯切れのいい、テンポのいい口調で、
とても楽しくて、時間の経つのを忘れてしまいました。

それ以来、
スタッフや教室のお生徒さんが使うときの包丁は、
すべて「吉實」
そして、私が使う包丁は、その中でも特別の、「操」作。

ソニーマガジンズから出した「基本のキ」や、
昨年末発売された「おかずのクッキング」12・1月号では、
対談を載せてもらい、操包丁を始め、
包丁とは、を熱く話してしまいました。


操ちゃんと呼んじゃってる近頃ですが、
お客さんのほとんどは名だたる料理人で、
お店は「東京都江東区重要無形文化財指定店」で、
操ちゃんのお父様は、その保持者。

人間国宝になるに違いない操ちゃんは、
一介の料理研究家がお付き合い願うのは
恐れ多いような人なのですが、実に気さく。
弟の清さんとの掛け合いはまるっきりの漫才。

人柄も包丁も最高の「吉實」
是非お勧めしたい包丁です。
Posted at 23:16 | 匠の技 | この記事のURL | コメント(9) | トラックバック(1)

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