東京は江東区の亀戸水神駅を西に10分程のところに
私が絶大な信頼を寄せる庖丁の
「吉實」があります。
15年以上前、いい庖丁がないかと気にかけていたところ、
江戸物産展で見かけた庖丁のコーナーで、
ダボシャツ姿で庖丁を研ぎ続けている職人さんを見かけました。
その指先を見ると白く巻かれたテープから血がにじんでる。
それでも、そんなこと気にする風でもなく研ぎ続けてる。
それを見て、「ここの庖丁を買いたい」と、直感で思いました。
「あのぉー」と恐る恐る声をかけると、
ちょいと遊び人風のこの人は
「おぅ、なんだい?」
「ちょっと良い庖丁が欲しいと思っているんですけど」と言うと、
こちらの顔を見ながら,
「このあたりはどうだい?」と見繕ってくれたのが、
一般に五徳とか言われている庖丁でした。
それを見ている私の顔に、
イヤダと書いてあったのでしょうね。
そんじゃ、とばかりに、値段の高いのを並べてくれました。
でもやっぱり五徳

私の顔はたぶん2割ぐらい

ふくれたんじゃないかな。
「あのー、もっといいのが欲しいんですけど」
「おたくだったらこういう方がいいと思うよ。
これなら錆びないし、研がなくてすむし。」
あ、完全に料理できない女と思ってる。
そっちがその気なら言わせてもらいましょ。
「そう言うんじゃなくて、もっとキチンとした、
まともなのがほしいんですよ
」
「これだって悪かない。」
「私、筋引きも持ってるんです
」
「え?筋引き持ってるの
」
筋引きとは、肉の処理をするときに使う庖丁で、
大体が肉屋さんで使われます。
「だから高くてもいいんです。いいのが欲しいんです。」
「なんだ、そうか。筋引き持ってんのか。」
…と、やっと本腰を入れて対応してくれました。
そしてその時買ったのが、これ。
骨剥きと呼ばれる、
鶏肉を骨から外したりするのに使われる庖丁です。
小出刃代わりにいけそうだと思ったんですよ。
今は鯵をおろすときに欠かせない包丁になっています。
牛刀は改めてお店にお邪魔すると言うことで、
この日はこの骨剥きとペティを買いました。
それからのお付き合いですが、
お店に伺うようになって2〜3回目に、
いつもの人じゃない人が出ていらしたんです。
お話しをすると、いつもの人は弟さんだとか。
この時の人はそのお兄さんで、操さんとおっしゃる。
「弟の仕事は粗いからね。
今度からは私を訪ねていらっしゃい。
筋引き持ってるんだって?
そう言う人はいい庖丁を持たなきゃ。
大丈夫。私がいい庖丁を作ってあげるから。」
通りの良い声でお話しくださる内容は、
とても歯切れのいい、テンポのいい口調で、
とても楽しくて、時間の経つのを忘れてしまいました。
それ以来、
スタッフや教室のお生徒さんが使うときの包丁は、
すべて
「吉實」
そして、私が使う包丁は、その中でも特別の、「操」作。
ソニーマガジンズから出した「基本のキ」や、
昨年末発売された「おかずのクッキング」12・1月号では、
対談を載せてもらい、操包丁を始め、
包丁とは、を

熱く話してしまいました。
操ちゃんと呼んじゃってる近頃ですが、
お客さんのほとんどは名だたる料理人で、
お店は「東京都江東区重要無形文化財指定店」で、
操ちゃんのお父様は、その保持者。
人間国宝になるに違いない操ちゃんは、
一介の料理研究家がお付き合い願うのは
恐れ多いような人なのですが、実に気さく。
弟の清さんとの掛け合いはまるっきりの漫才。
人柄も包丁も最高の
「吉實」
是非お勧めしたい包丁です。