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KIの映画13 [2007年11月02日(金)]
子どもが主人公の映画ってその周辺のおとながどう描かれるかが重要だったりする。子どもが脇役でないことで、むしろ周辺のおとなたちが魅力的で際立つ存在に見えることがある。(KI)

■『ミルコの光』★★★★☆
 
 1971年イタリア、トスカーナ。10歳の少年ミルコは事故で両眼の視力を失ってしまう。
当時のイタリアでは盲目の子どもは、通常の教育を受けられず、両親と離れ、全寮制の男子だけの盲学校に転校させられる。そこで偶然彼が手に入れた1台の古いテープレコーダー、その機械を通して知る音との出会い、彼はみずみずしい感性で周辺の音を集め始める。

 この映画は、現在イタリア映画界の第一線で活躍するサウンドデザイナー、ミルコ・メンカッチをモデルにした実話。70年代初頭の自由を求める運動が大きなうねりを見せていたイタリアの社会の中で、視覚障害者に対する保守的な思い込みを乗り越えようとする主人公ミルコとその周辺のおとなたちが魅力的に描かれる。
 『ニュー・シネマ・パラダイス』や『ライフ・イズ・ビューティフル』につらなるイタリア映画らしい、いい映画だ。舞台となる盲学校の生徒を演じるのは、イタリア全土で行われたオーディションで選ばれた演技未経験の少年たち。目の見えない子、見える子ほぼ同数ずつキャスティングされ、撮影前のトレーニング合宿では見えない子どもたちが見える子どもたちに、視覚に頼らずに外の世界を感じる術を教えたという。
 ちなみにミルコ・メンカッチは最近日本でも公開された1960年代から現代にいたる青春群像を描いた長編映画『輝ける青春』の音楽も手がけている。




■ 『この道は母へとつづく』★★★☆☆
 極寒の凍てつくロシアの大地、見渡す限り雪に囲まれたフィンランドとの国境近くの孤児院、映画はそこに遠くイタリアから一組の夫妻がやってくるところから始まる。
 映画の舞台となる2000年当時のロシアは、銀行や金融の破綻により、都会の通りにはホームレスの子どもたちがあふれ、その日一日生きのびるために路上で働いていた。田舎の貧しい孤児院でアル中の院長と暮らす子どもたちにとって、その劣悪な環境から抜け出す唯一の方法は、裕福な養父母に引き取られていくことだった。必死な目で養父母を迎える子どもたちと、院長とお金のやりとりをする仲買業者、べたべたした感傷を排した映像が胸を打つ
 イタリアの夫妻に選ばれたワーニャは、引き取られていく前に一人で本当のお母さんに会いに行くという無謀な計画をたてる。彼は自分に関する資料を読むために隠れて字を覚え、そして孤児院を抜け出し、冒険の旅へと…。
 ワーニャの周辺の人間たち、絶望し、開き直ってその日を暮らすおとなたちが、一途なワーニャの思いに引き込まれていく。映画の中で、束の間ワーニャに関わるおとなたちのその表情やしぐさに彼らの重い日常、人生が見て取れる。そしてワーニャは最後にお母さんに会えるのだろうか。ロシアで実際にあったお話。
Posted at 14:05 | 映画 | この記事のURL

KIの映画12 [2007年09月03日(月)]
 今回は、公開が始まるホットなドキュメンタリーをふたつ。
一見全く違う趣の映画なのだけれど、見終わった後に共通の思いがわいてくる。権力から重い被害をこうむった人が、人間への信頼を取り戻していく、率直で愛情あふれる人間関係で人が変わっていく…、2作とも、その過程が映像を通して体験できると言ったらいいのだろうか。こんな世の中だけど、こんなふうに関わり合える、人間ってそう捨てたもんじゃないと思えてくる。(KI)


■『オレの心は負けてない―在日朝鮮人「慰安婦」宋神道の闘い』★★★★☆

 
 朝鮮の忠清道で生まれ、16歳の時だまされて中国に慰安婦として連れて行かれ、敗戦後、再びだまされて日本に渡り、半世紀にわたり、過酷な暮らしの中で心の傷を深めていった宋神道さん。宋さんが、「支える会」のメンバーと出会ってからの10年を映画は追っていく。裁判に踏み切る過程の中で動揺し、不安をぶつける宋さん。とまどいながら宋さんの気持ちを受け止め、建前でなく真っすぐに向き合うメンバーたちの率直な語りがいい。メンバーたちと宋さんがお互いの気持ちを確かめ確かめしながら信頼関係を築いていく姿がていねいに語られ、この「在日慰安婦裁判を支える会」の10年の重みが説得力を持って伝わってくる。宋さんが自分の受けた被害を語っていくこと、そしてそれを聞いてくれる人がいること、その人たちが逃げずに向き合い続けてくれること。裁判をたたかった10年の中にそういう時間があったからこそ、宋さんが裁判の敗訴にも「オレの心は負けてねえ」と語れる今を獲得できたのだと納得できる。
 宋さんに謝罪も補償もしようとしないこの国や、裁判所に怒りがわくが、この10年の「支える会」との出会いの中で、宋さんがかけがえない人間関係を得て、心に受けた被害を回復していくこのドキュメンタリー、魅力的な宋さんのキャラクターと共に一見の価値あり。今後各地で自主上映、ネットで調べてみて。


■『ミリキタニの猫』★★★☆☆

 
 ニューヨークに住む80歳の日系人路上画家ジミー・ミリキタニ。このドキュメンタリーの監督、リンダ・ハッテンドーフが毎日歩く路上で彼はいつも絵を描き、その絵を買わない限り施しも受けない誇り高きホームレスだった。2001年9月11日、ツインタワーが崩れ落ちる緊張状態の中で、咳き込みながらそれでも絵を描き続ける彼を見て、リンダは思わず彼を自分のアパートへ招じ入れ、その日から2人の奇妙な共同生活が始まる。
 戦争中、日系人強制収容所に送られたため、アメリカに抵抗して自ら市民権を捨てたジミー。強制収容所での痛ましい記憶、決して忘れることの出来ない怒り、癒えない傷。ジミーは長い間、心の中でたったひとりの孤独なたたかいを続けていた。
 リンダは手をつくして47年前にジミーの市民権が回復していたことを明らかにし、彼の社会保障番号を探し当てる。彼は老人ホームへの入居が可能になり、離ればなれになっていた姉の生存を知る。孤独で頑固な彼をサポートするリンダの行動が自然でとてもいい。彼に向き合う時の飾らない率直な態度。それは、1作目に紹介した「支える会」のメンバーたちの宋さんに対する態度に通じるものがある。
 ジミーは、彼が以前収容されていたツールレイク強制収容所の跡地をリンダと共に訪れる。そこでの過酷な生活の中で幾人もの命が消えた。記憶をたどりながら彼はつぶやく。「もう怒ってはいない。通り過ぎるだけだ。思い出はワシに優しかった」
Posted at 13:00 | 映画 | この記事のURL

KIの映画11 [2007年07月24日(火)]
 情報が少なくて、あるいはステレオタイプの情報しかなくて、実際のところその国の人たちがどのように暮らしているのか知らないという国は多い。出かけて行って直接その国の人たちに会うことが出来なくても、映画でそこで暮らす人の息づかいが伝わってくることがある。今回はイランの映画と、イスラエルの映画を紹介してみます。(KI)

■『オフサイド・ガールズ』★★★★☆

イランでは、現在もイスラム教の教えによって法律で、女性がスタジアムで男性のスポ
ーツを観戦することが禁じられている。しかし、国民的スポーツといってもいいほど大人気のサッカー、イラン代表チームのワールドカップ出場がかかった大事な試合を見ようと、男装してスタジアムに少女たちが乗り込んだ。
この映画はサッカー大好き少女たちの元気で勇気に満ちた物語。男装してスタジアムに向かうバスに乗り、試合前の興奮に沸き立つ男たちの間に紛れ込みながら列に並んで中に入ろうと…、ドキドキ胸の高鳴りがこちらにも伝わってくる。全体に緊張感はあるけど悲壮感はない。ドキュメンタリーを見ているような臨場感、そこここにユーモアがあふれ、見終わった後、彼女たちと一緒にサッカーの熱戦を応援し終わったような高揚感にかられる。世界3大映画祭での受賞暦をもつジャファル・バナヒ監督の最新作。バナヒ監督の作品は政治的な異議申し立てを含んだ作品が多いため、本作を含め今まで作った作品もイラン国内では公開されていないという。
サッカー大好き少女といえば『ベッカムに恋して』(どうしてこんなタイトルにしたのかわからないけど、原題の『Bend It Like Bekham』はデビット・ベッカムのような弧を描くキックが蹴りたい、また、そのキックのように人生を変えたいという意味)も親に反対されながらサッカーチームに入っていくイギリスに住むインド系の少女の映画。これも元気が出る。

■『ジェイムズ聖地へ行く』★★★☆☆

南アフリカの小さな村で次期牧師に任命された敬虔なクリスチャン、ジェイムズはあこ
がれの聖地、エルサレムに巡礼の旅にやってきた。聖地への入口、イスラエル空港に降り立った途端、不法労働者と間違われ、その日から彼の外国人労働者としての過酷な毎日が始まる…。
素朴なジェイムズ青年が想像もしなかったイスラエル社会の現実とは。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖地であるエルサレムのあるイスラエルには毎年200万人以上の巡礼者、観光客が訪れる。人口約700万人のこの国には約50万人の不法労働者が住んでいるという。近代資本主義国家イスラエルと、宗教の聖地エルサレムの矛盾、資本主義的欲望の渦巻く社会に翻弄されながらも金儲け主義のルールを次第に理解していくジェイムズの姿を映画は皮肉とユーモアを交えて描いていく。彼の心の旅の行き着く先は?

本作プロデューサーのアミール・ハレルは、パレスチナの自爆攻撃者を淡々と描いた『パラダイス・ナウ』のプロデューサーでもある。
2人の若者が自爆攻撃へ向かう48時間を描くこの映画は、毎日銃撃戦が起こり、ロケット弾が飛んでくる街、イスラエル占領地ナブルスで撮影されたという。昨年のゴールデングローブ賞最優秀外国語作品賞を初めとして数多くの賞を受賞している。
Posted at 17:52 | 映画 | この記事のURL

KIの映画10 [2007年06月06日(水)]
太平洋戦争後アメリカに占領されていた沖縄が復帰して35年。沖縄に行くのにパスポートが必要だったなんて知っている人は少なくなっているんだろうなあ。でも、悲惨な地上戦が戦われた地であることと、米軍基地が集中していることは知らないではすまされない。縁あってこの6、7年沖縄に何度も通っているが、行く度になんと言ったらいいのだろう、その空気に圧倒されるというか。なにか、沖縄には違うカミサマが住んでいるようなのだ。今回紹介するのは沖縄の映画2本。『涙そうそう』なんか見ている場合じゃないよ。(KI)

■『恋しくて』★★★☆☆
 沖縄の映画といえば、中江裕司監督。『ナビィの恋』、『ホテル・ハイビスカス』はどち
らも沖縄の不思議いっぱいの映画だった。1998年の『ナヴィの恋』は沖縄では18万人の動員で、これは『タイタニック』を抜いて沖縄県の最多動員を記録した。そして彼は、2003年には石垣島の底抜けに明るいお年寄り楽団のドキュメンタリー『白百合クラブ 東京へ行く』を自主制作、06年には那覇市の閉館した映画館を街の劇場「桜坂劇場」として復活させたという沖縄どっぷりの監督なのだ。
 さて『恋しくて』だが、石垣島を舞台にしたラブストーリーで、これまた島の空気がたっぷり味わえる。3500人のオーディションで選ばれた主役たちは、石垣島の太陽の下、のびのびと自然体で活躍する。登場人物になりきれるよう、監督が物語の時間にそって撮影したというとおり、彼らが映画の流れとともに成長していく様子は、まるでドキュメンタリーをみているよう。主人公の母役、ジャズボーカリスト与世山澄子の歌う「What a Wonderful World」は絶品。もちろんBEGINの「恋しくて」もいい。




■『ひめゆり』★★★☆☆
柴田昌平監督は、1963年生まれ。彼が上映会で「ひめゆりと言った時、私より上
の人たちにはまたかと思われ、下の年代の人たちには知らないと言われるのでは」と語った言葉が印象に残る。彼が実際に出会った生存者たちが背負ってきた壮絶な体験、それは、時間の経つ中でようやく言葉にして彼女たちの中から出てきたものだった。今まで語られなかったたくさんのことが、生き残った者の使命として映画の中で今思いを込めて語られようとしている。
 敗戦間近の沖縄で、看護活動を担った15歳から19歳のひめゆり学徒隊の女学生たち、211人が亡くなったその悲惨な体験を13年間かけて記録した柴田監督は、彼女たちの証言をとことん記録したいという思いでカメラを回し続けたという。「こちらからカメラをストップすることはやめよう。皆さんが語り終えたと思えるまで何時間でもカメラを回そう」と決めていたという。80歳前後となった彼女たち22人の語る沖縄戦は凄まじい。とりわけ、米軍が包囲する中、解散命令を受け突然戦場に投げ出された彼女たちが、その後の数日で100名以上亡くなったというその現実を忘れてはならない。 
Posted at 16:12 | 映画 | この記事のURL

KIの映画9 [2007年05月10日(木)]
 時にはフィクションが、実際に起きていることよりも、もっと現実を映し出すことがある。それを見ることで何かを体験してしまうような、自分のリアルな記憶として心に残り続けるような…。今回紹介するのは、フィクションで、とびきりのエンタテインメント作品でありながら、たくさんの現実が織り込まれた2作。(KI)

■「それでも生きる子供たちへ」★★★★☆
原題は、「All the Invisible Children(見えない子どもたち)」。130分の映画の中
に、7つの国の子どもたちが登場する。ブラジル、イギリス、アメリカ、セルビア・モンテネグロ、ルワンダ、中国、ひとつのパート20分足らずのドラマにそれぞれのかけがえのない個としての彼らの生き様が描かれる。ストリートチルドレン、HIV体内感染、少年兵士など容赦のない現実の中で生き抜く子どもたち、見終わった後、彼らの一人ひとりが心に入り込んで、忘れようにも忘れられない存在となる。監督は、「シティ・オブ・ゴッド」のカティア・ルンド、「マルコムX」のスパイク・リー、「アンダーグラウンド」のエミール・クストリッツアなど、この企画を7カ国の巨匠たちが引き受けた。それぞれの監督の魅力も際立ち、短い時間に自分の世界に引き込む手際はさすがだ。世界中の子どもたちの窮状を救うためのひとつの手段として作られたこの映画の収益は、全額、ユニセフとWFP国連世界食糧計画に寄付され、子どもを救う助けのため活用されるという。6月公開。

■「パッチギ!LOVE&PEACE」★★★★☆
前作は、1968年の京都を舞台に在日朝鮮人と日本人の恋やケンカを描き、青春群像劇
として2005年度の主要映画賞を総ナメにした。今回は、1974年の東京、枝川を舞台に物語が展開する。あい変わらず殴りあいで始まるこの映画、井筒監督はこういうシーンがよっぽど好きなんだろうと思うんだけれど、でも映画を見ていく内、この殴り合いの痛さよりも、心のほうが、数倍痛いと思う場面に次々出くわす。前作のヒロイン役、沢尻エリカが「映画だけど映画じゃない、事実を伝える最高の教科書みたいなもの」と言う通り、今回の映画にも、学校の教科書では教えないたくさんの事実が盛り込まれている。この中で明らかにされる日本社会での在日の存在のさせられ方は、常々、親しい在日の友人たちから聞かされてきた。そういう意味では、1974年が舞台と言いながら、この物語は今の日本社会にもそのままつながっている。映画の中で、重ねて描かれる1944年の南洋諸島での日本軍のドラマは、封切られている映画の「君のためにこそ死にに行く」なんていうコピーがどれだけリアリティのないものかをはっきりさせるだろう。今、この国で一緒に生きているのは日本人だけじゃないのだと、まずわかるためにも、自分の周辺に「在日」がいない(と思っている)人にぜひ見て欲しい。5月19日全国一斉ロードショー。
Posted at 16:03 | 映画 | この記事のURL

KIの映画評vol.8 [2007年03月09日(金)]
2007年が明けたと思ったらあっという間に3月に。なんてことを言ったら笑われる?
暖冬のせいでぼんやりしている間にアメリカのアカデミー賞も決まったけれど、いまひとつぱっとしない感じでは(しかし、自分のぼんやりを暖冬のせいにしてもねえ)。助演男優賞、脚本賞をとった『リトル・ミス・サンシャイン』と、候補になった『硫黄島からの手紙』は見てみたいと思うけど…。
さて、今回はしばらくぶりのブログなので、アフリカを描く映画を一挙に4本紹介。(KI)


■「ルワンダの涙」★★★★☆
■「ナイロビの蜂」★★★☆☆

・1994年4月に起きた「ルワンダ虐殺」をテーマにした「ルワンダの涙」。実際に虐殺の舞台となったアフリカ、ルワンダの首都キガリにある公立技術専門学校で撮影をしたこの映画制作には、当時この学校で事件に会い、生き残った体験者たちもスタッフとして参加している。物語は、海外青年協力隊のイギリス人英語教師の目を通して語られる。ナタを持ったフツ族の集団に学校が取り囲まれる中、生徒たちや避難してきた多くのツチ族の人々を残し、白人たちだけが救助されていく。そして国連軍も彼らを残して撤退しようとする時、「ナタで切り殺される前にその銃で子どもたちを殺して」と頼むツチ族の男性の言葉が痛い。実際、そこに残された人々のほとんどが惨殺されたその事実を、当時、世界のメディアは黙殺。記者として現場に遭遇した英国BBCのデヴィッド・ベルトンは、危険の迫る中一人の白人神父に助けられ、数年後、その神父の死を知ったことでこの映画化を決意したという。公開中。

・「ナイロビの蜂」は、アフリカ、ケニアの首都ナイロビでイギリスの外交官として働く夫と、弁護士で救援活動家の妻テッサの物語。「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス監督が、冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を映画化した。テッサは救援活動をするうちに、イギリスの薬品メーカーによる現地の人々を使った国ぐるみの組織的な人体実験を突き止める。彼女は事件を追っている中で突然不慮の死を遂げ、その原因を探る夫はその裏に世界的な陰謀の存在を嗅ぎ取る。薬品メーカーによるアフリカでの組織的な人体実験というその設定はフィクションとは思えないリアルさで見るものに迫り、その追及に命を賭ける夫に起こる結末も恐ろしい。ナイロビの雄大な自然を背景に繰り広げられる「先進国」のエゴイズム。レンタルで見られる。





■「ツォツィ」★★★★☆
■「輝く夜明けに向かって」★★☆☆☆

・「ツォツィ」は「不良」「チンピラ」を意味する南アフリカのスラング。旧黒人居住区ソウェトの貧しいスラム街に住むツォツィと呼ばれる若者、彼はたったひとり怒りと憎しみを心の中に積もらせ犯罪と暴力にまみれた毎日を送っていた。ある日、その彼が手に入れたひとりの赤ん坊、そして彼の心の中に変化が…。この映画は、世界一の格差社会といわれるアパルトヘイト終焉後の南アの現状をリアルに切り取った初めての映画といわれ、2006年アフリカ映画初のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した。シンプルで奇をてらわない抑えたつくり、そこに流れる音楽がとてもいい。今南アでもっとも流行っているというクワイトという音楽、ゾラの代表曲「Mdlwembe」が冒頭からガンガン流れ、見るものをツォツィの世界に引き込んでいく。公開は4月から。

・「輝く夜明けに向かって」は、同じ南アの.アパルトヘイト下での実話に基づいた映画。
反アパルトヘイト組織ANCのメンバー、パトリック・チャムーソを主人公に、白人のテロ対策捜査官ニックとの攻防を描く。政治に関わることを避け、穏やかに暮らす平凡な市民パトリックが無実の罪で拘束、拷問を受け、その後、自由の戦士として闘いを開始する。彼は政府側から見れば危険なテロリストとなったのだ。「遠い夜明け」「ワールド・アパート」「サラフィナの声」など、アパルトヘイト政策を告発した映画は数多くある。しかし、この映画の現代的な意味は、差別政策撤廃後、長い拘束と拷問を経て釈放されたパトリックが解職された仇敵ニックを前にして報復をせず、テロの連鎖を自ら断ち切った事実そのものにあるのだろう。映画の中ではネルソン・マンデラ元大統領の「自由になるために敵を許そう」という演説も挿入される。監督は、オーストラリアにおけるアボリジニの白人同化政策を描いた「裸足の1500マイル」の監督、フィリップ・ノイス。捜査官ニック役は「デッドマン・ウォーキング」で自ら監督、脚本を手がけ、アカデミー監督賞をとったティム・ロビンスが演じる。重大なテーマの貴重な作品だが、★が2つなのは、女性の描き方が添え物的でいまひとつリアリティが感じられなかったから。残念!
Posted at 17:21 | 映画 | この記事のURL

KIの映画評vol.7 [2007年01月11日(木)]
お正月はどうでした?まとまった冬休み、というわけで旅行に出かけた人もいるだろうし、ずっと働いていた人もいるのでしょうねえ。この寒い時期、こたつに入って家でレンタルの映画を見るというのも一興。もちろんお正月が終わって落ち着きを取り戻した映画館に行って感動するのもいいかも。今年の初めは時代劇2本。(KI)

■ 「武士の一分」★★★☆☆
SMAP木村拓哉の時代劇。まあ彼のTVドラマは必ずヒットするし、確かにかっこいいし、宮崎駿監督のアニメ「ハウルの動く城」の声優の仕事は優しい声でなかなかよかった。でも2004年のウォン・カーウァイ監督「2046」に出演した彼を見たときは正直がっかり。キムタクってお約束のかっこよさから抜け出るの無理なのかなぁと…。
 ということで、この「武士の一分」、彼は確かにがんばっている、でも筋書きが古すぎる。これは彼のせいじゃないんだけど、監督の山田洋次さん、藤沢周平作品を映画化した時代劇3部作の最終作、江戸時代の地方の藩で静かに生きる下級武士の誇り高い姿を描いている、それはいいんだけど女性がねえ。主人公の妻のありえない可憐さ、その上、はかなげで無力、なんか男の人が想像する理想の妻って所詮こんなものなのかねぇってため息がでちゃった。ストーリーは、毒見役としての事故で失明してしまった夫(木村拓哉)の口添えを頼みに出向いた妻がその上司に犯されてしまい、その妻の仇を盲目の夫が技をみがいて討つというお話。剣道の心得のあるキムタクだからこその立ち回りと、彼の家に父の代から仕える中間役の笹野高史が、あの時代の人間の存在感を出していました。

■ 「花よりもなほ」★★★★☆
昨年の時代劇はこれがおすすめ、もうレンタル屋さんに並んでいるしね。主人公は仇討ちのために江戸に来た剣の弱い田舎侍。それをV6の岡田准一が演じるんだけど岡田君の気弱な優しい感じがぴったりでいいのよ(えっ!私が岡田准一を好きなだけだろうって?)。主人公が住む長屋の住人がそれぞれ個性的に描かれていて、古田新太、浅野忠信、香川照之、原田芳雄、木村祐一など一味違った実力派の役者さんたちがそれぞれ味のある演技で楽しませてくれる。落語のような筋立ても気が利いていて笑ったり、ほろっとしたり。貧しいながら人情味あふれる長屋の人たちと暮らす中で主人公は仇討ちをしない人生もあることに気づき始める。ラストも落語のおちみたいでうれしい!監督は、「誰も知らない」で新人柳楽優弥にカンヌ映画祭最優秀男優賞をもたらした是枝裕和、長編5作目での初時代劇だけれど是枝監督はもともと時代劇好きなんだそうで楽しんでこの映画を作っているような、そんな感じが伝わってくる。
 昨年、岡田准一の主演した「木更津キャッツアイ ワールドシリーズ」も、あい変わらずハチャメチャでおもしろかったし、宮崎アニメ2代目の「ゲド戦記」、映画の出来はいまいちだったけど、声優としての岡田君はよかった(やっぱりひいきしているだけかな)。
というわけで、今年もよろしく。
 
Posted at 11:15 | 映画 | この記事のURL

KIの映画評vol.6 [2006年12月14日(木)]
戦争を扱った映画はたくさんあるけれど、作り手がどんな視点でどんな思いで作ったかによって全く違ったものになる。今回紹介するのは、手法は異なるけれど2つとも今年の私の心に残る作品。(KI)

■「麦の穂をゆらす風」★★★★☆
1920年、アイルランドが舞台。イギリスの圧政下、アイルランド独自の言葉、ゲール
語を話しただけで拷問を受けるなど理不尽な暴力が横行する中、若者たちは軍事訓練を重ね抵抗運動を組織していく。対英独立戦争から内戦にいたる激動のアイルランド、アイルランド共和軍(IRA)の草創を英国の巨匠ケン・ローチ監督が描く。アイルランド南部の自然に重ね合わされるような、簡潔で力強く無駄のない若者たちの抵抗の姿は深く胸を打つ。やむにやまれず政治に巻き込まれ、対立を深めていく彼らが、死に追いやられる悲しみ、戦いのむなしさ、それは、歴史の事実としてだけでなく、今起きている戦争の悲劇につながるものだ。2006年カンヌ映画祭では、最高賞パルムドールを受賞、上映後はスタンディング・オベーションが鳴り止まなかったという。ケン・ローチ監督はカンヌ映画祭でこう語った。「私は、この映画が、英国がその帝国主義的な過去から歩み出す小さな一歩になってくれることを願う。過去について真実を語れたならば、私たちは現実についても真実を語ることができる。英国が今、力づくで違法に、その占領軍をどこに派遣しているか、皆さんに説明するまでもないでしょう」。



■「トンマッコルへようこそ」★★★★☆
戦争が起こっていることを知らず、笑顔あふれ自然とともに暮らすトンマッコル村に偶
然鉢合わせした敵対する3組の兵士たち、彼らはあたたかい村人たちとの交流を通して戦うことをやめ、人種、国籍に関係なく次第に心を開き笑顔になっていく。800万人を動員して2005年度韓国No.1ヒットとなった話題作だ。韓国と北朝鮮、米国の兵士が朝鮮戦争下、秘境の村で友好を築くファンタジー映画。村の少女がまちがって手榴弾のピンを抜いてしまい、投げ込まれたトウモロコシの貯蔵庫が爆発してポップコーンが雪のように降ってくるとか、確かに現実とはかけ離れた夢のようなシーンが目白押しなのだが、兵士たちのこんな村はありえないという表情といっしょになって、しまいには観客もついついその村人たちののどかな明るさに引き込まれてしまう。不思議な映画だ。「JSA」のシン・ハギュン、「シルミド」のチョン・ジェヨン、「オールド・ボーイ」のカン・ヘジョンなど演技派俳優が集結、音楽は韓国映画初参加の久石譲が担当した。
Posted at 17:46 | 映画 | この記事のURL

KIの映画評vol.5 [2006年11月18日(土)]
どちらも女性が主人公だけれど、全く違う後味。だから映画はおもしろい。両方とも映画を見た人の口コミで観客がひろがったおすすめの2本。(KI)

■「フラガール」★★★★☆
福島県いわき市常磐炭鉱を舞台に、石炭にかわって街を支える常磐ハワイアンセンターができるまでを描く。東京からダンスを教えに来た松雪泰子演ずる元花形ダンサー、気位が高く、盆踊りしか知らない素朴な炭鉱娘たちをばかにしていた彼女が、娘たちのひたむきな熱意に動かされてフラダンスの真髄を教え込んでいくという事実をもとにしたストーリー。誰もいない練習室で踊る松雪のタヒチアンダンスは鬼気せまるものを感じさせ美しいし、教え子に暴力をふるったその父親のいる公衆浴場に殴りこんでいく松雪の怒りの表しかたは、思い切り激しく、これまた美しい。最近こんなストレートな怒りの表現を見たことはなかった。スッとした。彼女ってこんないい女優さんだったんだ!炭鉱娘を演じた蒼井優、南海キャンディーズの静ちゃんもそれぞれ美しく、センター開きに披露するハイライトの華やかなフラは、大迫力!泣いて笑って映画のおもしろさを満喫できる。9月の公開以来、上映館が増え続けているそうで、米アカデミー賞外国語映画賞を狙う日本代表作品にも選ばれた。

■「かもめ食堂」★★★★☆
フィンランドのヘルシンキにオープンした「かもめ食堂」。お客さんはまだゼロだけど、店主のサチエさんは、今日も食器をピカピカに磨いている。小林聡美、片桐はいり、もたいまさこという、実力派、個性派の女優たちがふんわり、ほんわりいい味を出す。清潔でおしゃれな「かもめ食堂」で繰り広げられるおとなの女性たちのやさしい関係。なによりいいなと思うのは、3人の女性たちが、なにかの専門家であるとか、特別のキャリアを積んだとかではなくて、それぞれ自分の暮らしをまじめに繰り返してきた普通の女性として描かれていること。彼女たちは、ご飯を作ったり、片付けたり、人を思いやったり、そういうことを積み重ねて時間を経てきた人たちで、それだからこそ異国の地、フィンランドにもスッとはまる。映画に流れるおだやかな空気は、攻撃的でないやさしい会話のせいなのかしら。フィンランドで人気のブランド、マリメッコのファッション、インテリアもこの映画の空気にぴったり。ビデオ、DVDでレンタルしてます。
Posted at 01:08 | 映画 | この記事のURL

KIの映画評vol.4 [2006年10月17日(火)]
観たいと思っていたのに映画館で観られなかった映画が新作DVDでレンタル屋さんに出た。私たちのまわりには世界中の情報がいっぱいあふれているようにみえるけど、これらの映画を観るとその情報は実はすごくかたよっていると感じる。この2本は実際に起きた事件を映画化したもの。(KI)

■「ミュンヘン」★★★☆☆
1972年9月、ミュンヘンオリンピック開催中に起きたパレスチナゲリラによるイスラエル選手人質事件。オリンピックが中断されたこの事件を知っている?銃撃戦の末、9人の人質全員が死亡したこの事件の後、イスラエル政府の暗殺部隊による報復が行われる。暗殺部隊元メンバーの告白によって、ノンフィクション「標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録」(新潮文庫)になったこの作品を映画化したのはかの有名なスピルバーグ監督。テロに対するテロの報復を国家に命じられた暗殺者の苦悩…、テロによる憎しみの連鎖からはなにも生まれないというメッセージがよく伝わってくる映画だ。彼の作品、「シンドラーのリスト」もそうだけど、エンターテイナーとして、映画を楽しませながらあまり政治的にならないよう工夫して、言いたいことを出してくるところはうまい。余談だがこの人質事件のとき、日本の選手団に非難が集まったという。人質全員死亡という最悪の結果に各国選手が沈む中、競技再開の知らせに喜び、追悼式にジャージ姿で参列したり、練習のためと称して参列しなかった選手が多数いたそうで、海外の一部マスコミから「メダル・アニマル」と批判されたという。選手だけの問題というより、当時の一般日本人の国際感覚欠如の反映なのだと思うけど、今はもう少しましと言えない気分。


■「ホテル・ルワンダ」★★★★☆
1994年、アフリカのルワンダで多数派のフツ族による少数派のツチ族への大量虐殺事
件が起きた。100日で100万人が殺されたという大虐殺。この事件、日本でどのくらい報道されただろう。ホテルにいた欧米系外国人ジャーナリスト、ボランティアには退避勧告が出され、ホテルには現地の人々が残される。ルワンダに駐在する国連軍も中立を守り、世界中が黙殺する中、外資系高級ホテルの支配人ポールが、殺される運命にあった1200人のツチ族の人々をかくまい命を救った、実話に基づいた映画だ。主人公のポールはホテルマンとして誇りを持って仕事をするフツ族の男性、ヒーローっぽくなく、ただ危険のせまったツチ族である自分の妻と子どもを助けたい一心で、ホテルにかくまう。虐殺がエスカレートする中、平凡なホテルマンが知恵を駆使してホテルに駆け込んで来た人たちを守っていく。その事実の前では、ハリウッド映画の超人的なヒーローなんかぶっとんでしまう。それにしても、大虐殺を目にしているのに退避勧告を受けて引き上げてしまうジャーナリストってなに?この映画は「日本公開を求める会」の署名活動などの結果、やっと日本での興行が決まったという貴重な映画。
Posted at 18:50 | 映画 | この記事のURL

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