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虚妄の迷宮

思索に耽る苦行の軌跡

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幽閉、若しくは彷徨 七十七
――だが、直立歩行を始めた人類は、どうあっても 己自体の進化よりも環境を己のままに変へたい性(さが)はどう仕様もないのだらう、それが人類が誕生した「意味」だとしたならば? 

―― はて、それは人類の性かね? つまり、環境がこれ迄生き物がその環境に順応するべく進化と言ふものは進んできた筈だが、人類が誕生したことで進化の過程は全生物史を通じてコペルニクス的転回をしてしまってゐて、《存在》が心身を進化させるのぢゃなく、人類は環境を徹底的に人工的な《もの》へと変へる事で、へっ、さうした結果、人類は生物学的な進化を已めてしまった《存在》として此の世に君臨したのだ。

――へっ、でも、人類は生物学の目覚ましい進歩により、人工的に生命を弄(いぢ)る技術を手にしただらう。

――すると何かね、人類にかかれば生物は如何様にも創り出す事が可能、つまり、到頭人類に至って生き物は創造主たる《神》をその玉座から引き摺り下ろしたと? 

―― さあ、それはどうかな? つまり、人類が遺伝子操作をした生き物が、此の人工的な環境に適応出来るどうかは、譬へそれが人工的に遺伝子操作されてゐやうが、その生物次第だと言ふ事には何の変りもなく、つまり、《神》のみぞ知る以外に、今のところ何とも言へないのが本当のところかな。

――ふっふっふっ。つまり、人間が幾ら遺伝子操作を出来やうが、その遺伝子操作された《存在》が此の世で生き残れるか、死滅するかは今も未だ、《神》の御手のままとしか言へない、ちぇっ、博奕みたいな《もの》と言ふ事か――。

――つまり、《存在》の鬼子を人類は生み出してしまふ可能性を手にしたのだ。

――《存在》の鬼子とは? 

―― 多分、人類によって遺伝子操作されて此の世にいやいや出現させられた数多の《存在》の中で、此の世の人工的な世界に最も巧く適応する《存在》たる生き物は貪婪極まりなく、庶民を含めたその他大勢の《存在》が反対したとしてどう足掻かうが、科学者の性としてその貪婪極まりない未知の生き物は誕生させずにはいられぬ筈だが、へっ、さうするとその此の人工的な世界に巧く適応出来たその遺伝子操作された《存在》たる未知の生き物は、その外の生き物全てを喰らふことで全生物を鏖殺(あうさつ)し、、己の種のみ繁殖させる事だけを第一に、最早自身では種の繁殖に歯止めがかからず、とどのつまりは、その生物のみがこの世に《存在》することから、その遺伝子操作された未知なる貪婪極まりない生き物たる《存在》は共食ひをする外なく、つまり、他の《存在》たる生き物を全て喰らって鏖殺してしまった暁には、同類のその《存在》たる生き物を喰らふしかその《存在》たる生き物は《存在》する術がなく、さうなって初めて《存在》は同種の《他》の餌になる可能性を秘めたまま《存在》する、つまり、共食ひによってしか生き残れない生き物たる《存在》を誕生させて初めて、《存在》は己の《存在》の何たるかの一端が垣間見られる筈だぜ。

――それが《存在》の鬼子? 

――さう。俺には究極的には《存在》は己を餌にして生きる《存在》を誕生させる事を最終目標にしてゐる節があるとしか思へぬのでね。

――己を喰らって生きる《存在》? 馬鹿らしい! 

―― 何故馬鹿らしいと言い切れるのかね? 人類は遺伝子操作する事で此の世で最強の生物を創り得る術をとっくの昔に手にしてしまったのだぜ。其処で、仮にその最強の生物をこの世に誕生させて解き放せば、詰まる所、その最強の生き物は最強故にその生き物の種以外は全て喰らって鏖殺せずば最強たる所以である筈もなく、さうすると生物多様性は完全に消滅し一種の生き物のみが此の世に君臨する単調極まりない世界が到来するに違ひなく、その時、最強の生き物たるその《存在》は己と同類の《もの》を共食ひする外なく、しかし、生き物の本質に《他》を喰らふ事を何としても回避する性が潜んでゐるならば、その最強たる《存在》の生き物は、最終的に己を喰らって生きる、へっ、大いなる矛盾を生きる生き物をもしかすると人類は遺伝子操作によって生み出すかもしれないんだぜ。

――ちぇっ、それはお前の単なる妄想でしかない! 

――だが、妄想は、生物の進化に関はってゐるのぢゃないかね? でなければ、闇の中にある深海の生き物がGrotesque(グロテスク)な姿形である筈がない。そして、人類は人類の妄想をすら遺伝子を操作する事で、人類の妄想を具現化した生物を、つまり、《妄想=存在》を創り出す術を手にしちまったのさ。

――しかし、それは《存在》の自滅でしかないのぢゃないかね? 

――勿論、さうさ。しかし、《存在》が究極的に望む事は《存在》の自滅ぢゃないかね?

(七十七の篇終はり) 

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2010年9月27日(月) 20:14 [ 哲学 文学 科学 宗教 思索 ]
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