ざわめき 一 [2008年11月22日(土)]
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――君にはあのざわめきが聞こえないのかい?
――えっ、何のことだい? ――時空間が絶えず呻吟しながら《他》の《何か》への変容を渇仰してゐるあのざわめきが、君には聞こえないのかい? ――ふむ。聞こえなくはないが……その前に時空間が渇仰する《他》とはそもそも何の事だい? ――へっ、《永劫》に決まってらあ! ――えっ、《永劫》が時空間にとっての《他》? ――さうさ。《永劫》の位相の下で時空間はやっと自らを弾劾し果(おほ)せられるのさ。さうすることで時空間はのっぴきならぬところ、つまり、《金輪際》に追ひやられて最終的には《他》に変化(へんげ)出来る。 ――へっ、それって《特異点》のことじゃないのかね? ――……すると……君は《永劫》は《特異点》の中の一つの位相に過ぎぬと看做してゐるのか……。しかしだ……。 ――しかし、《特異点》は《存在》が隠し持ってゐる。つまり、時空間と雖も《存在》に左右される宿命を負ってゐる。即ち、時空間は《物体》への変化を求めてゐるに過ぎぬ! 違ふかね? ――否! 《存在》は《物体》の専売特許じゃないぜ。時空間もまた「吾とは何ぞや」と自らが自らに重なる不愉快極まりない苦痛をじっと噛み締めながら自身に我慢してゐるに違ひない。 ――では君にとって《特異点》はどんなものとして形象されてゐるんだい? ――奈落さ。 ――ふむ。それで? ――此の世にある《物体》として《存在》してしまったものはそれが何であらうとも《地獄》の苦痛を味はひ尽くさねばならぬ。 ――ふっ、それは時空間とて同じではないのかね? ――さうさ……。時空間も《存在》する以上、《地獄の奈落》を味はひ尽くさねばならぬ。 ――その奈落の底、つまり《金輪際》が君の描く《特異点》の形象か? ――《底》、つまり《金輪際》とは限らないぜ。もしかすると、へっへっへっ、《天上界》が《特異点》の在処かもしれないぜ。 ――ちぇっ、だからどうしたと言ふんだ? それはある種の詭弁に過ぎぬのじゃないかね? ――……自由落下……。俺が《特異点》に対して思ひ描いてゐる形象の一つに、《落下》してゐながら《飛翔》してゐるとしか《認識》出来ない《自由落下》の、天地左右の無意味な状態を《特異点》の一つの形象と看做してゐる……。 ――しかし……、《自由落下》では《主体》はあくまで《主体》のままで、《永劫》たる《他》などに変化することはないんじゃないかな? ――ふっ、《意識》自体が《自由落下》してゐると考へるとどうかね? ――へっ、それも《永劫》の《自由落下》かな? ――ふっふっふっ、さうさ……。……《意識》自体の《永劫》の《自由落下》……。……どの道……《特異点》の位相の下では《意識》……若しくは《思念》以外……その存在根拠が全て怪しいからな。 と、こんな無意味で虚しい事をうつらうつらと瞑目しながら《異形の吾》と自問自答してしまふ彼は、辺りの灯りが消えて深夜の闇に全的に没し、何やら不気味な奇声にも似た音ならざる時空間の《呻く》感じを無闇矢鱈に感じてしまふ、それでゐてじっと黙したまま何も語らぬ時空間に結果として完全に包囲された状態でしかあり得ぬ己自身に対して、唯々自嘲するのみしか術がなかったのであった。この時空間のぴんと張り詰めたかの如き緊迫した感じは、彼の幼少時から続く不思議な感覚――それは彼にとってはどうしても言葉では言ひ表せないある名状し難い感覚――で、彼にとって時空間は絶えず音ならざる音を発する奇怪な《ざわめき》に満ちたある《存在》する《もの》若しくは《実体》かの如き《もの》として認識されるのであった。 (一の篇終はり) ※自著の告知「夢幻空花なる思索の螺旋階段」 下記のURLでご購入(楽天)できます。 http://item.rakuten.co.jp/book/5874715/ |








