たまの休日に写真機材を抱えて京阪神のいずこかに出没、目指すは紀信かアラーキーか。みずからの愚かさ、未熟さ、時にはクライアントの理不尽さに嘆きつつも、世界を股にかけ写真を撮りまくることを夢想する・・・。
デジタル化の波に否応なく呑み込まれ、もみくちゃにされながらもどっこい生き残りを賭ける赤貧写真家の徒然なるブログである。

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ソウルるん滞在記 '88 \            冷戦の最前線へ [2008年07月18日(金)]
ソウルるん滞在記 '88 \ 冷戦の最前線へ 9月18日(日)


世界で一番ホットなところをよそに、世界で一番コールドなところに来た。

彼らの土地でありながら韓国の一般民間人が、立ち入ることのできぬパンムンジョム(板門店)は、外国人が定められたツアーによって訪門できる南北朝鮮唯一の接点。国連軍と北朝鮮軍、両軍が対峙し、管理し、監視しあう東西冷戦の最前線ゆえ、一触即発の危険との隣りあわせである。事実、この数年前北朝鮮側からパンムンジョムを訪れていたソ連人大学生が、韓国に亡命をはかり、両者の銃撃戦となったことは、記憶に新しかった。またTシャツやジーンズといった軽装、ピースサインや手を振ったりすることは、利敵行為と見なされ、認められない。昨日のロッテホテルでの手続きも、革靴を買ったのもここに来るためだった。

8時半、ロッテホテルを出発。この日はオリンピック自転車競技のため本来通る国道1号線を迂回、是非見たかった北朝鮮がソウル奇襲用に掘ったという第3南進トンネルの見学ができず、残念だった。2時間後、キャンプ・ボニファス着後、パンムンジョムについてのレクチャーを受け、「いかなる事態になっても国連に責任・賠償を求めない」という趣旨の書面にサインをする。それが参加の前提条件だが、文面が英語のうえ、ここまで来てサインをするもしないもない。ただの形式でしかなく、猿芝居のように思えた。

同キャンプにはプールやテニスコート、訪問客向けの土産屋があり、その隣のバーでは非番の兵士たちが、北朝鮮にも電波が届いているはずの、オリンピックのボクシングTV中継を見てくつろぐ姿が見られ、今ひとつ緊張感に欠けると思った(*1)。ちなみにそこでの昼食は、まるで味のない草履みたいなステーキ、まるで味のないポテトサラダと、とんでもなくまずいものだった。「こんなまずいものを毎日食わされるなら、オレは軍隊なんか絶対行きたくない」と、思った。

そこからいよいよJSA(Joint Security Area、共同警備区域)へと向かう。何棟か並ぶ建物のあいだに敷かれたコンクリートが、いわゆる軍事境界線で、警備兵も越えられないが、国連軍ゲストである西側観光客は軍事停戦委員会会議場に入って、その中央を走るマイクコード=境界線を越えることができる。つまり日本のパスポートには北朝鮮への入国はできないと記されているにもかかわらず、合法的に足を踏み入れることができるわけだ(*2)。

軍事境界線とは国境ではない。両軍が激しく戦闘、一歩も譲らず、一歩も進めず膠着してしまい、協定で戦争をしばらく“休む間”の、勢力が接するところ。互いが相手の存在を認めないゆえ、第三者である私たちが“観光客”として、境界線をまたぐことは複雑な心境である。


場所を第5哨所に移すと、北朝鮮の山々が一望でき、パンミ(反米)と削られた山肌や、チャジュ(自主)とかかれた看板が見える(写真左と右)。いずれも北朝鮮が常に唱えているスローガンだ。その手前には、軍事境界線を示す10メートルごとの白い柱(写真中)。何の変哲もない大地に厳しい現実がある。そして、宣伝村と称される集落は、ほとんど人は住んでおらず、もっと遠くからここに人がいるよう見せかけるため通っているという。高さ160mの巨大な国旗掲揚塔、拡声器を使って繰り返し、自らを賞賛し、相手を罵倒する…。見方を変えれば滑稽であり、悲しくもある。

そんな非武装地帯は、人の手がつけられておらず、自然の宝庫であり、野生動物たちの楽園ともなっている。そこを自由に往来する鳥に、人々は南北に引き裂かれた家族への気持ちを托すという。 写真編 ⇒ 9/18

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パンムンジョムから戻ってきて、韓国の国宝第一号ナムデムン(南大門)前に立つ。周囲は大韓商工会議所、シンハン(新韓)銀行、サムソン(三星)生命、デウ(大宇)財団など韓国経済の中枢が集まり、市民の台所ナムデムン市場、ミョンドン(明洞)、シンセゲエ(新世界)百貨店などショッピング街が近い。ここにはもはやあの緊迫感は微塵もない、賑やかで楽しく明るくて面白い街、世界有数の大都市ソウル。さっき見たことが現実なら、何台もの自動車が行き交い、人々のざわめきもまた、現実。その落差に少し戸惑いながらも、買い物客で賑わう市場を楽しもうと足を向けた。



(*1)実際は韓国はNTSC、北朝鮮はPALとTVの放送規格が違うため、電波は届いても観ることはできない
(*2)「このパスポートは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を除く全ての国と地域で有効」、いわゆる北朝鮮除外条項。1991年改訂で削除
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