2008年02月
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29

匂いを表す語彙とその背景 [2008年02月03日(日)]
 

ある匂いを言葉で表現するのはなかなか難しいものです。

例えば、バラの花の香りについて説明しようとするとき、イメージ浮かんでくるものの、具体的に言葉で表現しようとすると上手くいきません。

爽やか、ほろ苦い、甘い、甘ったるい、甘酸っぱいetc、味や匂いを表す感覚的な表現は、個々の嗜好や感覚によるところが大きいため、話し手に正確に伝わらないかもしれません。また、「リンゴのような」、「オレンジのような」、「ラズベリーのような」、「醤油のような」匂いといっても、その匂いを知らない人には伝わりません。
ある特定の匂いんについて、言葉を駆使しても正確に伝えることができず、もどかしさを感じた経験があるのではないでしょうか。

匂いについて語ろうとすると、日本語には嗅覚に関する語彙が、意外と少ないことに気付きます。匂い(一般的)、香り(良い匂い)、香気(良い匂い)、芳香(良い匂い)、悪臭、臭気・・などがありますが、嗅覚は主観的な感覚なので、匂いの感じ方は人それぞれに異なります。

匂いを表す言葉という点においては、英語には多様な表現があります。ざっと並べてみると・・・
1.smell = 匂い 匂いを嗅ぐ
2.flavor = 食べ物につけた匂い(調味料、香料を加えて)
3.fragrance = 香り、芳香、香気、芳香のあるもの(花、香水など)
4.aroma = 香り 芳香 (酒、ワイン、コーヒーの香気)
5.perfume = 香水 香料 芳香 香水をつける
6.scent = 好ましい香り (香り袋、キャンドル、線香、お香) 動物・人が通過した臭跡、手がかり
7.spice = 芳香 (詩) 香りの高い香辛料(香ばしい)
8.odor = 嫌な臭い
9.smoky = 焦げ臭い 煙くさい
10.reek = 強烈な臭い
11.stink = 悪臭を放つ
12.nose = 嗅覚として鼻が利く、直観力・勘が働く
13.sniff = 鼻をクンクンさせて匂いを嗅ぐ、匂いで感づく、鼻から吸い込む
14.savor = 匂い、香り、風味、味と匂い

欧米人が日本人よりも匂いに関する豊富な語彙を持っているのは、ひとつには欧米人が狩猟民族であったことに由来するのかも知れません。食料となる獲物を捕らえるためには、鼻を利かせて獲物の気配を感じ取る動物的な感覚が必要です。

「胡散(うさん)臭い」「きな臭い」「不正が臭う」など、「臭う」という言葉が勘(第六感)を表すのは、世界共通ですが、これは嗅覚が五感のうちで本能的に身体諸器官の反応を引き起こすからであると考えます。「匂いを感じるメカニズム」については別の機会に触れてみようと思います。

香りの起源は、香木や香草を燃やして立ち昇る煙の香りを嗅いだ薫香であるといわれています。古代において、香りを焚くことは、洋の東西を問わず、神事の礼儀での邪気を清めるためものでした。香りは歴史とともにその形や価値観を変化させながら、今日の香り文化を築いてきました。

西洋の香水文化の発展には、中世ヨーロッパにおける「入浴事情」が深く関係しています。
風呂好きの日本人にとっては信じがたいのですが、中世のヨーロッパには入浴習慣がありませんでした。主な理由は、キリスト教会が入浴を非難したこと、共同浴場がペストの温床とされたこと、フランスでは入浴すると病気なると信じられたことなどがあります。

パリの街は極めて不衛生で、臭いものには蓋をしろとばかりに悪臭や体臭を隠すために、香水が流行りました。(映画、「パフューム −ある人殺しの物語」をみるとその辺りの事情がよく分かります)

当時の香水の主流といえば、麝香など動物性の香りです。体臭や汚物の悪臭と動物性香水が混ざり合った「匂い」は、当時の人々にとって魅力的な香りだったのでしょうか、(正直なところ)甚だ疑問です。

当時の習慣の名残でしょうか、欧米では、現在でもバスタブよりもシャワーを好む人が多いようです。そして、もちろん香水文化は健在です。
ロンドンやニューヨークの朝の通勤列車は、モーニングバス(モーニングシャワー)の後、香水のシャワーを浴びたたビジネスマン&ビジネスウーマンで溢れます。日本人にとっては少々息苦しい時間帯となります。

一方、仏教の経典とともに日本に伝来した香りは、仏前を清め邪気をはらう供養に始まり、平安時代には、薫物を教養とする雅の世界感が生まれ、香りは自己の美意識の表現手段として用いられました。戦国時代には、薫香に精神性を見出し、出陣を前に武将たちは兜に香を焚きこめて、心身を清めたといわれています。室町時代、茶道や華道と共に香道が成立し、江戸時代に最盛期を迎えます。香道は作法をもとに香木を焚き、香りを「嗅ぐ」といわずに「聞く」と表現します。

古代、農耕民族であった日本人は、稲作の傍ら、山野に自生する木の実や果物、山菜を採取して食用としました
同時に、田植えや収穫の時期を木々や草花から教えてもらいました。四季の移ろいを愛でる行事として、今日に伝わるお花見やお月見の起源は農耕儀礼であり、儚い美しさを好む日本人の奥ゆかしさの由縁となっています。

最近、日本人にも香水の愛用者や香りを自己表現の手段として利用するという人が増えてきました。植物の香り成分についての研究が進み、香りは「楽しむ」だけから、「健康増進」や「予防医学」に利用される時代になりました。お香や線香に代表される和の香りの精神性が評価され、欧米で静かなブームを呼び起こしています。

香りの機能性が再評価されることで、時代の香りの価値観に変化が見られることでしょう。
匂い・香り・臭い・・・に対する興味関心が高まることで、今後、日本語においても嗅覚や匂いの表現が変化したり、語彙が増えたりするかも知れません。

Networks (4)
http://www.cafeblo.com/aromaplus/index1_0.rdf






(c) 1999-2008 Cafeglobe.com All rights reserved