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bP6 寂しさ、そして希望

2008-07-10 19:20:15
  やはり母や兄弟と離れることは嫌だった。でも、それなりに施設に入るべきか考えていた。迷っていた。
 ある日、いつものように部屋の窓から、休み時間になるとトイレに駆け込んで来る小学生を見ながら、道路へ目を逸らすと時より母親と散歩する男の障碍者が目に映った。
 忠より年上のようだった。そしておぼろげに、(自分もあんな風に歩きたい)と思った。そんなことを思ったら福祉事務所の人間の言葉を思い出していた。                   
その日の夕飯を食べなら、
「ターチ、施設に行くよ」
忠は言葉を出した。でもその言葉の後に、少し後悔した。
「たーち、どこかに行くの。」
妹が今子に聞いた。
「いいから、お前は早くご飯を食べな」
 今子は少し声をこわばらせた。
「いつも、ミーたちばっか怒るんだからか」
 妹が言った。
忠は(歩きたい)の思いが強かった。      
忠が施設に入ることを決意して次の年の春、施設に行く日が迫まっていた。
今子は荷物づくりをしている。忠は内心不安と寂しいさを感じていた。(行きたくない)とは言えなかった。
夜の七時ごろになった。忠はお膳にいた。
「毎日のテレビ番組を教えておくよ」
 忠は少し自慢げに話しだした。一週間を全て言い終えた。その後も忠は一人で、たわいの無いことを言い、時間の経つのを忘れていた。
 そして出発の朝、市の車が迎えに来た。もちろん兄弟たちは学校へ行っていない。今子が荷物を玄関に運び出し、それを福祉事務所の人間が車に積んでいた。
部屋で座っていた忠を今子が抱き上げた。その瞬間、我慢していた糸が切れ、忠は声を出して泣いた。
少し住み慣れたアパートの部屋から、車に乗った。ゆっくりと来るが走りだし、寂しさが倍増した。嘘のように涙が零れ落ちた。
 伊豆半島の国道は大半が海に面して走っている。青い海に白い波がたち幾つもの岩を襲う。景色的にはかなり最高の道路である。そんな装いも忠の目には入らなった。
 車はいつしか海沿いを離れ、山道を登っていた。くねくねとカーブを何度も曲がって行く車の中で「もう直ぐ、お前の父ちゃんと通った湯ヶ島の病院のあたりだよ」と母の今子が車外を見ていた。だが、これも忠の目には入らず、いつしか車は韮山にある医療施設についた。
 一九七八年の四月のこと。忠十二歳。
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