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bQ6 十一歳の小学一年生  

2008-10-08 00:15:20
 脱走のまねごと以来、そんなに家に帰りたいとあまり思わなくなり、思ってもいなかった養護学校へ入学の運びとなった。
気が着くと小学一年生として全校生徒の前で名を呼ばれていた。中三から小一まで総勢三十人くらいいた。校舎は教室四つが並ぶプレハブ製の一棟だけだった。そのため
、入学式会場は忠が寝起きしている施設内の機能回復訓練室で行われた。入学する父兄に混じり、施設看護師も式を見ていた。
 式のあと、忠たちのプレハブの教室に移動した。クラスメイトは七人いた。障がいの程度はほとんど者が重かった。
 忠は学校に行けることが嬉しかった。そこで勉強が出来ることが。
 その翌日、わくわくしながら教室へ行った。途中職員室の前を通った。大勢いるように見えた。教室に入ると五人の同級が先に来ていた。タオルで作られた前掛けをした一人のクラスメイトが、ヘッドギヤーをかぶされた頭を左右に振りながら教室を歩き回り、意味不明な言葉を発していた。
 黒ぶちメガネをかけた担任も入って来た。担任がその生徒を席に座らせ、黒板の前に立ち一人一人名前を呼んだ。その佐中でもその生徒は何かを言いながら叫んでいた。
担任が二度三度となだめていた。だがやめる様子はなく、担任はしばらく他へ気を反らしていた。こいつは施設にいても一人で騒いでいたが、この時は本当にうるさく、迷惑な奴だった。担任は少し顔を強ばらせた。
騒ぐ生徒の頭を手で押さえつける様にして、「うるさい、だまりなさい」
とその生徒を上から見ていた。
 少しは静かになった。
 そしてこの日は、二時間で授業が終わった。

bQ5 アホな脱走劇

2008-10-02 23:47:09
 次の日の夜、忠は部屋の全員が寝静まると、おもうことを実行した。非常口に目をやりながら、ゆっくりと布団をでると、周りに気づかれないようにそこに向かって這った。
扉の前に一メートル四方くらいの土間がある。その土間に降りた。コンクリートが固く膝に痛かった。   
忠はその時、(うまく行そう)と思った。ところが、非常口とトイレが近いところに寝ているのは、セッちゃん姉さん。
「忠君、どこ行くの」
と土間にいる忠に声をかけた。
忠は焦った。
「トイレはそっちじゃないよ」
セッちゃん姉さんが、布団から声をかけた。
「家に帰る」
忠は本気で言った。
「外に出るのはだめだよ」
 と、セッちゃん姉さん
「大丈夫」
 忠は扉のノブに手をかけた。
「先生に叱られるからよしな。簡単には家に帰れないよ」
セッちゃん姉さんは話している。
だが、忠の耳にはその言葉はあまり入ってこなかった。
またドアのノブに手を掛け回した。でも、ドアの開きが固くてなかなか外へ開かない。あるったけの力でドアを押し開けた。外に出ると看護婦室の灯りが窓から漏れていた。
 忠の前方すぐそこに小さな林が迫っていた。毎日、昼夜とこの林の向こうから自動車の走る音が聞こえていた。通る車に乗せてもらおうと思っていた。
 ゛家に帰れる゛と思った。
地面を這って林に入った。細い竹がひしめき合って生えている中を這った。小石や竹のくずが両手や両膝に喰い込み、痛いのは勿論両手に血が滲み出して来た。でも、引き返そうとは思わなかった。
 しかし、少し行ったところで、ドスの利いた声が後ろからした。
「忠、そこで何してんのー。いったいどこ行く気なの」
這うのをやめ、後ろを振り向くと、この日泊まりの看護婦長、そう、大魔神だった。
忠は恐れ慄いた。
まず、一発尻を叩かれた。
「毎日泣いてばかりいて、今度は夜逃げか。そんなに帰りたいなら、本当に帰してやろうか」
と婦長。
実際に職員の間で家に帰すことを検討されたと、後で知った。
忠は婦長に抱き上げ風呂場へ連れて行かれた。薄暗い風呂で体を洗われた後、布団に入れられた。
 実際、脱走など誰が見ても無理なことで、それを出来ると本気で思った忠はアホである。

bQ4 歩行車ガメラ

2008-09-24 18:54:38
 数日経った夜、消灯までの自由時間、忠は車椅子で廊下にいた。まだ施設内がどうなっているのか分かっていなかった。そのため、すこし廊下を動こうと思った。とりあえず部屋の前から遥か向こうに見える、玄関まで行こうとしていた。
すると、いきなり歩行車で歩く障がい児が近よって来た。
「ここで、何してんの」
少し高い声で、少し早い口調で話しかけて来た。
その障がい児は、パジャマを着て頭にはヘットギヤーをかぶっていた。おまけに顔が長く、歩行車にぶら下がるように足を曲げて。
「何してんの」
 また聞いて来た。
「何もしてない。玄関まで行く。」
 と忠は答えた。
「そう、いいんじゃない、僕も付き合おうか」
 忠と同じスピードでついて来た。
゛なんか嫌だな゛忠はそう思っていた。
「もういいから、部屋にかえれば。」
そう忠が言っているにも関わらず、この障がい児は、ヘラヘラ笑っているだけだった。
(こいつ変なヤツだなー)と思っていた。
この障がい児、顔がカメのように細長かったことから、上級生から「ガメラ」と呼ばれていた。しかし、顔つきも鋭いのかと言えばそうずはなく、ちょっと叩けばヘナヘナになりそうなひ弱な奴だった。
こいつは本当に変な奴で、みんなから゛ガメラ゛と呼ばれる度に喜んび、ゲラゲラ声を出して笑って喜んでいた。
忠がまた離れるようにと、言うとようやく聞き分けた。
「そう、がんばって」
 言い、早足で何処かへ行った。
 そして、こいつは養護学校では姿を見るが、
施設内では何時しか姿が見えなくなった。
忠はそのまま玄関まで行き、暗い玄関の外を見た後、布団に入った。でもやはり思うのは家のこと。そしてある考えを実行しようと思った。

23 嫌な思いと詰らない言語訓練

2008-09-18 16:17:03
 長い一日が終わろうとしていた。四時半の夕食が終わると、八時半まで自由時間。
個々が思い思いに過ごしていた。部屋で遊ぶ障がい児、廊下を這い回る障がい児といろいろだった。そんな中、忠も十号室の部屋にいた。何をするでなく、ただそこにいるだけだった。セッちゃん姉さんはトイレに近い位置が布団をひかれ、その上で本を読んでいた。寝る時間になった。泊まりの看護師と保母さんが一人一人、着替えさせて行く。それを見ながら、(家にいたら銭湯に行く時間で、その後、妹や弟たちと遊でいるのに)と忠は思っていた。
「さぁ、忠君も」
履いていたズボンと服を脱がされ、パジャマになった。そのまま布団をかぶされ、間もなく灯りが消せれた。
翌朝も処置室の前で顔を拭かれ、早くも昨日と同じ固定椅子に座らされた。誰もいない食堂で座っていた。
 間もなくして、各障がい児のテーブルに食事が並ぶと、年齢が小さい障がい児食べ始めた。忠の前にもご飯とおかず、味噌汁が載ったおぼんが置かれた。
 忠は食べるのが遅いため、看護師がご飯に味噌汁と、おかずを一緒混ぜ込んだ。
 忠はそれを疑問に思わず食べた。が、ご飯の味もおかずの味もわからず、強い味の味噌汁が幅をしめていた。
 食事が終わり、動ける年の多い園生が片づけを職員とはじめた。
 忠ともう一人はまだ固定椅子にいた。
例の姉さんが来た。
「ターチ、もういいか。かたづけるよ。」
 と言って。
そして、「ターチ、おめー、汚いねぇなー。どんな食べ方していのぉ。」と
 おぼんを片づけ、忠がはめていた前掛けを両方の人指し指ではずした。前掛けには、ご飯と汁で汚れていた。そのためだからだとおもう、姉さんの顔は本当に汚い物に触っているようだった。
忠はそんな顔に゛ごめんなさい゛の思いでやってもらうしかなかった。でも、気にさわることを言われと、胸に残った。
朝礼の後、忠はまた廊下に残された。 そして、また中庭に出て、白い雲をみていた。
訓練時間になった。昨日と同じように看護師に訓練室に連れてかれた。今回は言語訓練と看護師が言う。
訓練室の中に入った。四角い机の前に女の訓練師が一人座っていた。忠は訓練師と向かい合って座わらされた。゛何をやるのか゛と思っていた。
 板きれに立てた、細い五本のロウソクを忠の前においた。そして火をつけ、火を一本づつ順に消すようにと言った。
 忠はロウソクに向け息を吹きかけた。でも、ロウソクの火は僅かに揺れただけで、燃えていた。
訓練師は何度もく繰り返すようにと、言った。だが、結果は同じで一時間これで終わった。つまらない訓練だった。

22 からかう姉さんと優しい姉さん

2008-09-15 00:48:07
   ゆっくり、ゆっくり車いすをこぎ部屋に向かっていた。ベッドの部屋が並ぶ廊下でまた
「泣き虫、坊主ちょっとこっちにおいで、一緒に遊ぼう」と昨日と同じ部屋の前で、同じお姉さんたちに声をかけられた。そう、十六、十七位だったと思おう。それに、片足を引きる・片方の足が短い・片腕がマヒしてる、と言った具合でうるさそうなお姉さんたちだった。
そのまま行こうとした。
「しらんぷりしないで、おいで」
 普通に歩いているお姉さんか自分たちの部屋に忠を入れた。
中に入るといい臭いがしていて、壁にはよく分からないグループサウンズのポスターが壁いっぱいに貼られていた。同じ部屋のみんなから、トッポというあだ名で呼ばれていたお姉さんに「ターチーの家、下田たって」、「私は松崎なんだよ。同じ伊豆同士なかよくしようぜー」そう言われながら、車椅子をベッドとベッドの間に引き込まれた。しばらくあれこれ忠に話かけていたが、いつしか会話は忠からはずれていた。
忠は廊下に出た。
昼になると園児がまた食堂に集まった。
忠も固定の椅子に座らされた。メニューはハヤシライスうまかった。
しかし前にも述べたように、忠は食べ方が下手だ。この時も口の周りと、胸元はベチョベチョにハヤシライスで汚れていた。しかし、忠が食べ終わると、看護師がそれを難なく片づけた。
  お昼の食事が終わり、また学校と訓練へと散って行った。
 忠は部屋に戻り、自分の戸棚の前で、絵本を手にしていた。頭の大きなお姉さんが忠がいる部屋に戻ってきた。
 少しずつ手と足を前に運び、這っていた。なにか重くけだるい歩みに見えた。でも、忠に掛けてくれた言葉は優しく、「一緒に遊ぼう」と忠に言った。
忠はその言葉に誘われ姉さんのそばに。
なのに。忠の目は姉さんの頭に行っていた。「私の大きな頭きになる?」
 セッちゃん姉さんは、忠が置いたおもちゃを手にして言った。
「何でそんなに大きいの?」
 忠は聞いた。
子供だったとは言えなんと愚かな質問だったのかと思う。
 そして、姉さんは、「私の頭には何故か水が溜まるんだって。それで頭が少しづつ大きくなる病気と先生が話してくれたよ」と物静かな話し方で話した。
 その話に忠はなんか解らない重い感じを受けた。
 そんなセッちゃん姉さんなのに、そばにいると気持ちが安らいだ。セッちゃん姉さんは本当に優しく、つまらない忠の遊びにいつまでも付き合ってくれた。

21 最初のリハビリ(訓練)

2008-09-02 23:29:28
  忠はその場に残された。何をすれば、何処に行けばいいのか途方に暮れた。
「何してんのー、部屋に行ってなさい」
 忠の横を通る大魔人の看護婦長が言った。 仕方がなく、慣れていない車椅子のタイヤを回す忠。が、体の中は寂しさでいっぱいだった。知らぬ間に芝生がひかれた中庭にいた。誰も居なかった。そして四角い空を見上げた。
゛あの雲、どこに行くのかな。家がある下田に行くのかな゛と思った。そのうち涙がこぼれ落ちてきた。こぼれ落ちる涙のあとに、声を出して泣いていた。                 
看護師と保母がかわるがわる廊下へと連れ戻すが、しばらくするとまた、忠は中庭に出て泣いた。
「ほら、いつまで泣いてんのー、訓練に行く時間よ。」
看護師が車椅子を押し、機能回復訓練室に連れて行った。訓練室に入ると、訓練師四人ほどが治療台にいる障がい児の手や足を曲げたり、伸ばしたり、マッサージしたりしていた。電気を使う機械も幾つか並んでいた。
忠はしばらく入り口近くで待たせられた。
「痛いよー、もういい、もういい」
と言う泣き声にも似た声がしていた。゛何があるのか、どんなことが起こるのか゛の思いの中にいた。
一人の障がい児の治療が終わった。すぐに忠が治療台に乗せられ、寝かされたかと思うと、ズボンを脱がされた。下半身パンツ一丁である。
訓練師が金属製の容器を手にし、忠の両足に白い粉を振りかけた。
緊張している腿から膝下にかけて揉みほぐした後、元々真っ直ぐに伸びない両膝を無理に伸ばそうとするのである。
忠は違和感があった。と言うよりものすごく痛いかった。
「あと三回、膝を伸ばすぞ。痛いけど我慢しろ」
と訓練師が言うと、右手で膝の皿の辺りを下に抑えつけ、左手でふくろはぎを持ち上に上げるようにして膝を伸ばした。力を加減しているとは言え、これは本当にいたかったが、もっと痛いのがまだあった。あまり開かない股を徐々に力を入れ広げていった。股の皮と筋がちぎれる感じがした。とにかく痛くって、広げられる度に悲鳴にも似た声をあげた。
「よし、今日はおしまい。部屋に帰っていいぞ」
 忠は車イスに乗せられた。部屋へ戻ろうとし、車椅子をこいだ。

20 すべてが戸惑い

2008-08-20 22:32:26
 次の日の朝、看護師の計温で目が覚めた。時間は六時半。けたたましい行進マーチが設内ぜんぶに流れだした。全員起床の合図である。間もなく、泊りだった看護師と保母が忠たちの部屋にきて、二十ほどの子供の着替えを手際よくこなしていった。忠も布団に座わらされ息つく間もなく服に着替えさせられると、廊下の車椅子に乗せられた。
看護室の前に連れて行かれた。ここで温かい濡れタオルで顔をふかれ、そのまま食堂へ連れてかれた。そして、昨日と同じ食事専用の椅子に。
「これに座って食べると、食べ方が上手になるから」と言われながら座らされた。まだ誰もいなかった。忠は園児全員の前で、しかも一風変わっているイスに座ることが、みっともなく思えた。隣にもう一人、同イスに座る障がい児がいた。二人だけがぽつん、と置かれていた。しばらくして、着替えをやっていた看護師と保母が、それぞれのテーブルにご飯、おかず、味噌汁と置いていく。それを動ける年がいった障がい児が手伝っていた。低学年たちがまばらにお能の野席にすわり、「感謝して頂きます」の掛け声で一斉に食べ始めた。
 早くから固定イスにいた忠にも黄色く幅の広いビニールの前掛けがはめられ、おぼんのまま食事が置かれた。
食事を食べる忠。食べ方が本当に下手だった。口に入るよりも前掛けに貯まる方が多く、溢しまくっていた。なんせ、家にいる頃は母に食べさせてもらっていたのだから無理はない。
食事が終わり、廊下に出された。この後、どうしたらいいか分からない忠は、廊下の隅にいた。
「朝礼が始まるよー。みんな廊下に出てー、朝礼だよ」
と何度も職員の声で繰り返されていた。昨日の朝までとは、違う生活環境に戸惑いの連続だった。
 障がいの軽い児童は中央廊下に立ったまま整列し、その他、車いすの者と、歩行者使用の者は、列に加わらず端に集まっていた。出勤してきた職員もその後に散らばっていた。整列している園生の前で、指導員がその日の予定を読み上げていた。
 この場で、忠を含めた新入り十数名が前に出され、紹介された。一通りのことが済むと、
行進曲が流れはじめ、長い廊下を一斉に行進し始めた。忠は看護師に車椅子を押してもらい、列に入っていた。
 行進はロの字型を一周し、朝礼もおわった。
みんな行くべき所に散らばった。

No19 大勢の食事と専用のイス

2008-08-12 17:46:16
 そしていつしか、窓の外では日が西に傾いていた。看護師と保母が部屋に入って来ると、「さあ、食事の時間だよー」
そう言いながら、部屋にいる障がい児を一人ひとり車いすに乗せた。忠も同じように抱き上げられ車いすに乗せられた。廊下の大きな非常口が開いていた。そこから遠くの山にかかる夕焼けが眩しく見えた。
 誰よりも先に忠は食堂に連れて行かれた。入るなり、息つく間もなく忠の体と同じ幅の木製の椅子に座らされた。左右も体がこぼれ落ちないように、胸の高さまで肘かけがあった。座られたあと、食事を置く板がはめこまれ、さらに首にはビニールの幅広の前賭けをけられた。その後ようやく忠は食堂全部を見ることができた。
 忠の位置から見て長いテーブルが奥へ四列並んでいた。左二列は年が小さい子供たちのようで、低学年からテーブルが埋まって行った。低学年が食べ始めると、忠のところにもごはん・味噌汁・おかづが乗ったおぼんが置かれた。忠も食べ始めた。
 右二列も高学年が埋まりはじめ、昨日病室からからかうように声をかけた、子供か大人か分からない女三人も。忠の前を通って席についた。
 忠は食べながら横を見ると、同じイスで同じ前掛けをかけた障がい児が、激しくこぼしながら食べていた。食べたか、食べなかったか、よくわからないまま食事は終わった。保母に歯を磨いてもらい、部屋に戻った。
息つく間もなく、寝る支度。すでに全員の布団がひかれていた。ほかの障がい児も寝間着に着替え消灯までの間、思い思い遊んでいた。
 忠は手持ち部佐々の中、昨日までの暮らしを思い浮べ涙の粒が零れ落していた。夜の八時になった。部屋の明かりが消された。家にいたらまだまだ遊んでいる時間である。布団に入っても思うことは家のことだった。涙が次々に出て気がつくと布団をかぶり、秘かな声で泣いた。廊下では高学年たちの笑い声と話声が聞こえていた。

bP8 施設での生活スタート

2008-08-04 19:25:10
 忠は職員に抱かれ部屋に入った。部屋はかなり広かった。しかし、部屋全体に敷かれている敷物には沢山のシミがあり、カーテンで仕切られただけのトイレも臭っていた。忠は嫌な感じを覚えた。
 母の今子は看護師に言われるまま、忠の名前がついた戸棚に持ってきた衣類を整理していた。忠はそれを見ていた。直ぐ横で小便をもらすやつがいた。気づくと部屋には数人障がい児がねっころがったり、おもちゃで遊んだりしていた。
 そこに部屋の入口で、誰かが入ってこようとする気配を感じた。みると、頭の大きさが普通より目立つ女の子が這って部屋の奥へ進んでいた。大きな頭にどうしても目が行った。
女の子は自分の戸棚の前で、忠を見ると「こんにちは」と笑い顔を浮かべた。
 忠はドッキとした。そして何も言えず、直ぐに顔をそ向けてしまった。
「仲良くしようね」
なおも女の子が話しかけていた。だが、また忠は何も言えなかった。
 しばらくして、゛入園した子供の父兄は、会議室に集まれ゛との放送が園中に流れた。
母、今子はその通りに部屋を出て行った。
忠は部屋の中から母の後ろ姿を見ていた。
そこへ
「そこの君、こっちにおいで、私と遊ぼう」
と頭の大きな女の子が手招きをした。
 が、行こうとした半面、忠は行けずにいた。
看護師が部屋に入ってきた。
「セッちゃ、ありがとう」
看護師が頭の大きな女の子に言っていた。
 忠たち新園児三人が部屋の真ん中に集められた。そして自分の名前と、自分がこの部屋の受け持ち、と言うことを話した。
 それより忠は母が部屋に戻ってこないことが気になっていた。でも、一時間経っても母、今子部屋に戻ってこなかった。ものすごく不安を感じた。部屋の入口で母が戻って来るのを待ったが、いっこうに戻って来なかった。廊下に出て玄関に向けて這った。
「かあさんは?」
 忠は側にいた保母にいった。
「お母さんは、もう帰ったのぉ」
青い上っ張りを着た保母さんが忠を抱き上げ部屋に戻した。忠はさみしくなり、なおも這いずって廊下に出た。不安のあまり、泣きたい気持ちになった。が、言いようのない大きな不安の方が勝り、゛これから、自分はどうなるの?、ねぇ、どうなるの゛の思いが胸で渦を巻いていた。
 その後の忠は自分の戸棚の引き出しを開け、家から持ってきた僅かな絵本やおもちゃをもくもくと手にしていた。同じく入園した障がい児の何人かは声を荒げて泣いていた。

bP7 入園したら、大魔人

2008-07-24 17:32:34
 医療施設の玄関先に車はついた。忠のほかにも入所するらしく、車を降りる障がい児が見られた。
 福祉事務所の人間が大きな玄関のドアを開けた。今子に抱かれ忠は、施設内に入った。すぐに玄関の横にある、診察室の待合い室に案内された。忠は今子に抱かれたままだった。
 その時、スブ太い声で「いつまで、甘えてんの、あんたはこれに座って」と言うが早いか、忠は声の主に抱き上げられ車いすに乗せられた。(車すい初体験である。)
突然のことに理解する間もないまま声の主を見ると、身長が高く、がっしりとした体格のおばさん看護師が忠を見下ろしていた。まるで当時のあるテレビキャラ、大魔神のようだった。
 
ちなみに、この番組はよく好んで見ており、魔人が悪人を投げ飛ばし、踏みつけて退治するシーンがたまらなく好きだった。
 話を本文に戻して、

 しばらくして、忠は診察室に呼ばれた。診察室を入ると、正面に大きな窓があった。その窓からはお昼の日差しが差し込んでいた。その直ぐ横に医師の机と椅子があり、そのイスに白衣を着た医師が座っていた。
 忠は看護師に連れられ医師の横に行った。医師が忠の方に向いた。見覚えがある顔だった。そう、巡回検診で見た顔。
 医師が車椅子の忠を自分に引き寄せた。
「足、診るからねぇ」
 医師の手が忠の膝に来た。曲がり具合と伸び具合を診ていた。少しくつぐたく思えた。しばらくして、
「よし、いいだろう」
 と医師。 
「部屋に連れて行きます」
 大魔人看護師が診察室の外に忠を連れ出した。
「じゃ、部屋に案内するからここで待っていて」
 そう言って、大魔人看護師は診察室へ入って行った。
 忠は母と待っていた。
「忠くんだね」
青の上っ張りを着た女の職員が忠の顔をのぞき込んだ。
「お部屋に案内するからねぇ」
その職員が車椅子を押しはじめた。今子も後をついてきた。車いすを押されながら、廊下の先を見て、(長い廊下だな)と思った。
間もなくして、左側に幾つも部屋が並ぶようになった。部屋が並ぶ真ん中あたりで、部屋から何人かの声が忠の耳に入った。声の元の部屋の中を見ると、三人の子供か大人か分からない女の人たちが足にギブスをはめベッドにいた。
「おっ、可愛いやつじゃん、あとでお姉さんたちと遊ぼう」
 と言い、笑っていた。
 忠は不思議に思った。
「からかうんじゃない、あんたたちはー。あんなお姉さんたちは、無視、無視」
職員が車いすを押しながら話していた。そして職員の足の歩みは、長い廊下の突き当りの部屋で止まった。
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